【作戦名、ジンジャーエール】

#48 希少価値がステータスなのだ

「はい、全員集合」


 的当の一声で、境内に散らばっていたアンサーズのメンバーが集まる。読神神社からの依頼内容をもう一度確認するためである。案の定、歩亜郎は言うことを聞かず、木の幹に寄りかかって目を閉じている。いつものことなので、的当は彼を無視して話を続けた。


「えー、今回の依頼は読神神社の警備だ。何でも、【禁書庫アーカイブ】とやらが狙われているらしい」

「【禁書庫アーカイブ】、ですか――ああ」

「雪上は何か知っているのか?」

「以前結社内で、誰かそんな話をしていたような気がします。読神神社には、聖解を記した本が眠っていると。まあ、私と一無の殺意を放てば、聖解は亡きモノにできますけど――どうやら、クリスマス・クライシスとは別の計画のようですね」


 クリスマス・クライシス。先日起きた被害亡き通り魔事件を含む一連の騒動。これはガイアコレクションが神殺しシャットダウンの魔女を用いた想造力学実験を行うための試験的な計画であった。


 果たして、今度は禁書庫アーカイブを狙って、何がしたいのだろうか。


「そもそもそんな本は存在しているのか? 現代社会において、未だに聖解の定義があやふやになっているというのに、そんな本が存在しているなら、暮井黄金もびっくりだろうな」

「歩亜郎。そんなところから口を出すくらいなら、こっちへ来い」

「はぁい」


 珍しく歩亜郎は素直であった。先ほどまでトイレの鏡に頭を突っ込んでいたらしい――というのに、彼の機嫌はいつもと比べると安定していた。何か良いことでもあったのか。


「実は、先程とても眼鏡が似合う女性を見かけたのだ。希少価値がステータスなのだ」

「あー、はいはい」


 まあ、興味がないので、的当は気にしない。


「えー、その【禁書庫アーカイブ】とやらが狙われているという話を進める上で、メロンから皆に紹介したい人たちがいるらしい。メロン、後は頼んだ」

「承知」


 デカメロンの隣に立っている二人が、彼の紹介したい人間なのだろうか。歩亜郎は興味無さそうに、一舞は笑みを崩さず、葉子と鬼衣人は少々警戒したような表情で、彼らを見据えた。


「ども! 兎耳砂雄です! よろしく」

「読神、書子です。よろしくお願い致します」


 二人の正体は、砂雄たちのことであった。アンサーズが依頼を受ける上で、二人のことを知っておく必要があると、デカメロンが判断したのだろう。


「おぉ、さっき見かけた眼鏡っ娘なのだ」

「はぁ?」


 書子が怪訝な表情で、歩亜郎を睨んでいる。奇妙な発言をした彼を警戒しているのだ。


「ふふっ、ポアロくん?」

「あーあ、雪上一舞も眼鏡掛けたら――な、何! いつから僕の背後に立っているのだ!」


 歩亜郎の背後に、一舞が移動していた。よく見ると、彼女の影の中から、一無が鬼の形相で刀を握って歩亜郎の方を見ている。選択を間違えれば、歩亜郎は死ぬだろう。いろんな意味で。


「私たちが気配を殺せることはご存じのはず――ポアロくん、やはりあなた、眼鏡フェチだったのですね。そんなに眼鏡が好きなら、あなたが掛ければ良いではないですか」

「ふっ、知らないのか? 僕は自室でくつろぐ時は眼鏡を掛けているのだ」

「ふ、ふーん? そうですか」

「(お姉ちゃん! 何でちょっと興味あるような態度なのよ! 眼鏡なんてどうでも良いでしょう! ましてや、そいつの眼鏡姿なんて需要ないわよ!)」

「あー、えー、話が続かないから歩亜郎たちは黙っておいてくれないか?」

「眼鏡に、目がネーってことで――」

「おい馬鹿兄貴、少し黙ってくれないかしら」


 葉子が傘を顕現して、歩亜郎へ石突を向けて構えている。照準は歩亜郎の尻に合わせてあり、彼は瞬時に恐怖を抱いた後、小さく震えると、真面目な空気を作り出した。


「尻だけに、シリアス――」

「あ?」

「い、いえ――すまないのだ」


 葉子を怒らせては、いけない。気を抜いたら、死が待ち受ける。


「話を戻すが、今回アンサーズが受ける依頼は、彼らと協力して遂行することになったから、皆喧嘩しないように。特に、歩亜郎」

「はぁい」

「ええっと、質問よろしいですか」

「ん? 何だ、キート」

「そちらにいる兎耳さんと読神さんが神社の関係者なのは、なんとなく察せるのですが――何故、今回珍しく共同で依頼を遂行するのでしょうか」

「それについては――メロン」

「ああ――こほん。ここにいる変態、兎耳砂雄は書子様を護衛する上で最も重要な存在である。書子様が一番心を開いている存在は砂雄なのだから。そういうわけで、読神神社関係者との連携が不可欠だ」

「【禁書庫アーカイブ】を守る話なのに、何故書子さんを守ることになるのです?」

「察しが悪いわよ、キート。話の流れから、書子さんと【禁書庫アーカイブ】には何かしらの関係がある――そうでしょう、メロン」

「それは、まあ」


 葉子の追及に対して、言い淀むデカメロン。


「メロン、後は私が話す」

「ですが、書子様」

「私のことは一番私が知っている。彼らへの説明は私が行うべき」


 書子が皆の前へ一歩出る。彼女が何かを話そうとしている、それは流石に鬼衣人でも察することができた。それは他の者たちも同じであり、書子の説明を待った。


「【禁書庫アーカイブ】はお前の【世都内界アニマ・スフィア】のことだろう、読神書子とやら」


 しかし、歩亜郎だけは何も察することができず、自らの推論を口から解き放った。

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