#44 約束しろ

 地面に叩きつけられる砂雄とデカメロン。ここは神社の境内のようだ。


「空間に穴を開けるとは……貴様、【答想者アンサラー】か!」


 デカメロンがそう言って砂雄を指す。


「そんなはずはないけど……まあ今はどうでもいい!」


 砂雄は今、無性むしょうに腹が立っていた。


「さっき言ったこと、取り消してしょこちゃんに謝れ!」

「拙者は間違っていない。だから謝る必要がない」


 デカメロンが接近し、砂雄を殴りつける。


「ぶっ!」


 遠くまで吹き飛ばされる砂雄。


「どうした? いつもみたいに気を失って逃げないのか?」

「誰が逃げるもんか! いいからしょこちゃんに謝れよ!」


 今度は砂雄がデカメロンに殴りかかる。


「遅い!」


 だが避けられ、砂雄は地面の上を転げまわる。


「謝れ! しょこちゃんに、謝れ!」

「こいつ、完全に頭に血がのぼっているな……」

「謝れ!」


 砂雄が手をかざすとそこに穴が開く。そして、その穴をデカメロンに向かって投げ飛ばす。


「当たらんぞ!」


 デカメロンがそれを避ける。


「どうかな!」


 避けるのは想定済みだ――砂雄は、デカメロンが避けた先に、穴を生成する。


「何だと! 穴が深すぎて、動けん!」


 砂雄はその隙を狙ってデカメロンに近づく。


「謝れよ……しょこちゃんに謝れよ!」


 デカメロンにしがみつく砂雄。


「なあ! 謝ってくれよ……しょこちゃんは人間なんだ! 物じゃないんだ!」

「事実は変わらない」


 穴から抜け出せたのだろう。デカメロンに蹴り飛ばされる。


「あ――」


 蹴り飛ばされ、階段から落ちて――また、砂雄の意識は途絶えた。



     †



「う、ん……?」


 砂雄が目を覚ます。彼はどこかの部屋の中にいるようであった。


「ここは……」

「ここは拙者の部屋でござる」


 起き上がると、デカメロンがそこにいた。


「何で僕を助けたの?」

「助けたつもりはないが――一度、お前とは話をしたかったでござる」


 デカメロンはそう言って緑茶を渡してくる。


「毒とか入っていないよね」

「はははっ。どうでござろうな」


 笑って誤魔化すデカメロン。本当に大丈夫かな――砂雄は疑念を抱きつつも、礼を述べてから緑茶を飲み始める。美味であった。


「それで僕と話をしたいって、どういうことさ?」

「【禁書庫アーカイブ】にあそこまで執着しゅうちゃくする人間はお前が初めてだ。単純にお前に興味を持ったというのが拙者の正直な気持ちだ」

「その【禁書庫アーカイブ】って言うの、やめてよ。彼女は人間だよ」

「そうだな。彼女は人間だ。しかし、【禁書庫アーカイブ】という事実は変わらない」

「むむむぅ……」


 デカメロンは砂雄と喧嘩をしたくて、彼を助けたのだろうか。意味がわからない。


「お前、どうして【禁書庫アーカイブ】に執着する?」

「神社に閉じ込められているのはおかしいから。もっと外を見てほしいから」

「違うな。それだけではない」

「え?」

「正確には、外の世界にいるお前のことを見てほしい、、、、、、、、、、、、、、、、、、というのが本音なのだろう?」

「どういう、こと?」

「お前は【禁書庫アーカイブ】のことが好きってことでござる」


 好き。好意を持っているということ。


「そう、かも」

「やけに素直であるな、お前」

「父さんや母さんにもよく言われる」


 そうか、僕。しょこちゃんのことが好きなんだ。好きだから。彼女に笑っていてほしいから。世界を見てほしいから。僕を見てほしいから――砂雄の鼓動はもう、止まらない。


「彼女にお前を――外の世界を見てほしいなら、彼女にふさわしい男になると約束しろ」

「え? うーん、なれるかなあ」

「約束しろ」

「う、うん!」


 デカメロンの気迫に気圧けおされ、頷く砂雄。


「今日は神社の警備が薄くなる日だ。これだけ教えてやる。あとは、好きにしろ」

「どうしてそんなことを教えてくれるの?」

「拙者、馬に蹴られる趣味はないでござる」


 彼は本当に砂雄と同い歳なのだろうか。難しい言葉をよく知っている。

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