#42 ずっと側にいてあげれば良いのに
次の日。砂雄は早速、読神神社まで走った。もちろん、彼女に会うためだ。
「またお前か」
階段を上がっていると、木の上から声がした。またメロン頭の少年が現れたのである。
「しょこちゃんはどこ?」
「お前が知る必要はないでござる」
「ふーん……じゃあ自分で探すから」
「それを拙者が許すわけないでござろう」
その瞬間、メロン頭の少年の両手にクナイが出現する。
「え? ど、どうやって出したのさ⁉ 何もないところからいきなり――」
砂雄の疑問に答えることなく、彼は斬りかかった。
「ぐえっ⁉」
あまりの痛さに砂雄はその場で転げまわる。
「これに懲りたら、もうここには来るな」
彼はそう言うと、神社に戻って行った。
「痛い、痛い……」
そしてまた、砂雄は意識を失った。
†
「君! 君、大丈夫かい!」
どれくらい時間が経っただろうか。声が聞こえる。どこか優しさを感じる、男性の声だ。
「待っていて! 今止血するから!」
「おにいさん、は?」
「四季市内の土湖花野学園大学に通っている学生だよ。まあ今はそんなことよりも君の応急手当をしないと!」
通りすがりの青年の的確な処置により、砂雄は意識を取り戻した。
「ありがとう、ございます……」
「とりあえず、病院に行こうか。話はそこで聞くよ」
病院に行く途中でわかったこと。
青年は土湖花野学園大学の医学部に通っているということ。医者の卵だったからこそ、砂雄を助けてくれたのだ。そして青年は、かつてとても悪いことに加担していた償いとして、今度こそ真っ当な医者を目指そうとしている途中であるということを、砂雄は知った。
「へー。お医者さんになろうとしているなんてすごいですね」
「まあ僕のことはどうでもいいんだ。それよりも――」
青年は砂雄にジュースの入ったコップを渡すと、話の本題に入った。
「君はどうしてあそこで血を流して倒れていたんだい? もし事件性のあることがあったなら、僕は警察に通報しなければならない」
「ち、ちがいますよ! ちょっと転んだだけです!」
「嘘はいけない。傷口が転んだ時のものではなかったよ」
「う……」
砂雄は一連の出来事を素直に、正直に話した。
「そういうことがあったのか」
青年は特に驚くこともせず、コーヒーを飲んだ。
「君も災難だった。まあ、ここは四季市。想造力学実験都市だから、こういうトラブルは珍しくない」
「想造力学……」
「君も知っているだろう、そういう人間達がいるということを」
「はい。授業で習いました」
「君の言うメロン頭の少年は【
「あのメロン。メロンのくせにやたら強かったんですよ」
「まあ中身は当然人間だろうけども」
「でもやり方が強引過ぎるよ! あんな武器を持っているなんて
「容認できることではないけど――まあ、それは仕方がないんじゃないかな」
「どうして?」
「彼にも守らなければならないことがあるんだよ、きっと」
青年はそう言うと、笑いながらジュースをもう一杯、砂雄に渡した。
「そういえば、お兄さんはどうして神社にいたの?」
「え、あ?」
「だから、お兄さんはどうして神社にいたのさ?」
青年は少し照れながら砂雄に語った。
「実は、彼女に別れを告げられてしまってね……まあ、彼女はあの子の母親になってしまったから、僕と付き合う余裕なんか無くなってしまっただけなんだろうけど――とりあえず恋愛運を上げようと、神社にやってきたわけだ」
「ふーん。女の人にフられるって、なんかダサいね」
「随分と失礼なことを言うね――まあ、これで良かったと思うよ。ほら、僕は――悪い人間だったわけだし。これ以上彼女も、彼女の息子も、巻き込むわけにはいかないからね」
「ふーん? 難しい話だね」
「好きだけでは、どうにもならないこともあるということさ」
「変なの。好きなら、ずっと側にいてあげれば良いのに」
「あはは――そう、だね」
青年に家の近くまで送ってもらった砂雄は、とりあえず宿題をやろうとした。けれども怪我の痛みが消えず、結局宿題はできなかった。
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