#39 いやはや、興味深いのだ
エクステを着けた一舞は、三角巾の位置を整えながら、デカメロンへ尋ねた。
「私とポアロくんはあのクリスマスから毎日こんな感じで過ごしているわけですが、今日に限って、廃教会の壁を壊してしまったので、振子さんはお怒りなのです。何か良いアルバイトがあるなら、私たちに紹介していただけませんか」
「お、おお――かつて市内を震撼させた
「(この忍者、お姉ちゃんに対して失礼ね。斬ってやろうかしら)」
「(だから落ち着けよ、一無――あ、斬るなら、果肉が飛び散らないように頼むぜ。オレの喰う部分が減らないように、丁寧に斬ってくれよ)」
「失礼なのは、どちらでござろうか」
一無と歩和郎がメロンの斬り方について話し合っているが、別にデカメロンが被っているフルフェイスヘルメットは、本物のメロンではない。どう頑張っても食すことはできない。
しかし、歩和郎ならば、あるいは――身の危険を、デカメロンは感じた。
「まあ、幽霊コンビの冗談はともかく――頼む、メロン。僕たちに何か仕事をくれ。仕事をしないと、お年玉をもらうことができないのだ」
お年玉をもらうために、アルバイトをする――目的と手段が滅茶苦茶になっている気もするが、無条件でお年玉を要求することをやめた歩亜郎は、ある意味立派なのだろうか。
そんなわけ、あるか。彼は、九十九歩亜郎だぞ。
「貴様はお年玉をなんだと思っている……この神社は年末年始ということもあって、仕事ならいくらでもあるが、貴様たちを雇うとなると、読神家の許可が必要だ」
「あら、メロン自身は雇っても良いと思っているのね。意外だわ」
「どういうわけか、乃鈴様は歩亜郎に懐いている節があるからな。全く信用できぬわけではない。不審者が乃鈴様に近づいた際、身代わり以上の働きをしてくれるだろう」
「デリシャスなのだ。これでお年玉を振子に要求できる」
「それとこれとは、話が別のような気もするが――まあ、いい」
デカメロンは、神社の奥で年末年始の準備を進めている乃鈴の元へ向かうため、境内の掃除を止めた。歩亜郎たちをバイトとして雇うために、許可を得ようとしているのだろう。
「丁度、書子様と、ついでにあの変態も帰ってくることだし、人数が多い方が賑やかで、きっと乃鈴様も喜ぶだろう。せっかくだし、アンサーズ全体に依頼という形でアルバイトをお願いしようとするか」
「誰か帰ってくるのか。乃鈴やお前に兄弟とかでもいるのか」
「兄弟では、ない。乃鈴様の従姉と、彼女に付き纏う変態だ」
おい、おい、おい、と歩亜郎は思った。読神神社の関係者に変態が付き纏っているのに、何故、このメロン頭は涼しい顔をしているのだろうか。見損なったぞ、デカメロン――彼はそう考えたが、冷静に考えれば自分自身も所謂変態の部類に入ると、以前葉子が言っていたことを思い出して、気分が沈んだ。確かに歩亜郎はお姉さん属性を所持する女性が好みではあったが、決して変態の領域には足を突っ込んだりしてはいないはずだ。
「そういえば――」
隣にいる一舞も、お姉さん属性を所持している。そんな彼女のことを、歩亜郎は嫌悪しているわけではなく、むしろ好ましく感じていることは事実であり、要するに――
「どうしました、ポアロくん? 顔が真っ赤ですよ?」
「変態とは、いかにして変態と定義されるのか、いやはや、興味深いのだ」
「え? 気持ちが悪いことをおっしゃいますね」
「ち、違う! 今のは、極めて学術的な視点から検討した変態の――」
「馬鹿兄貴、近づかないで」
「何故だ! 何故、僕は誤解される! 何故なのだ!」
喚き散らしながら、一舞と葉子を追いかけ回す、歩亜郎。一舞たちは、器用に歩亜郎から距離を取り、神社の女子トイレへ逃げ込んで行った。流石にあの歩亜郎も、女子トイレまでは追いかけてこないと、考えたのだろう。実際彼は、トイレ直前で、足に急ブレーキを掛け、勢い余って、男子トイレの洗面所に設置された鏡へ頭から突っ込んでいた。
「歩亜郎の給与は、不要で良いか」
そんなことを呟きながら、デカメロンは幼い頃の出来事を思い出していた。
あれは――この寒い現在とは真逆の、暑い夏の日の出来事であった。
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