#33 要するに好きにしていい
その頃、読神神社では――デカメロンが大きな靴下を作っていた。
「メロンって、本当に忍者なの?」
「今更何を言っている葉子。拙者はどう見ても忍者だろう」
「だってあまり忍ばないし、裁縫とか得意だし」
「しかも頭はメロンのヘルメットですもんね」
「キートまで、何を言っている」
デカメロンは乃鈴や葉子、ついでに鬼衣人のために、サンタクロースがプレゼントを入れる靴下を縫っているのだ。最初は乃鈴のためだけに作っていたのだが、気が付いたら年下組全員の靴下を作り始めていた。
葉子は乃鈴の大事な友達だ。それ故に、一緒のものを使ってほしいという気持ちがデカメロンにはあった。鬼衣人は――本当についでに作っただけである。他意は無いようだ。
「というか、神社の家庭なのにクリスマスパーティーに参加していいものなの? アタシ、その辺りの宗教的ルール全然詳しく無いけど……」
「乃鈴様が楽しめるなら、拙者はそういうのは気にしないでござる。他の文化を尊重し合う心構えこそが一番大切なことで――要するに好きにしていい」
「そうなのね」
「まあ、昔の読神家は厳しかったが、素直すぎる変態のヤツが変革を起こしてからというものの、乃鈴様も、そして彼女も――ある程度自由に過ごせるようになった」
「よくわからないけど、まあ、昔は大変だったってことかしら? その変態さんたちは、今どこにいるの?」
「拙者の忍者の里で修行をしている。彼女もそれについて行った。今度会えるだろう。もうすぐお正月だし、読神家に帰ってくるはずだ」
「忍者の里って、そんな簡単に修行させてくれる場所なの?」
「今の時代、閉塞的な環境は忍者を堕落させるだけだ。他所からの、新しい風も必要になってきている。開かれた里作りも、今後の繁栄には必要不可欠だ」
「ふーん」
「あ、乃鈴ちゃん、来ましたよ」
視線の先には、サンタクロースの恰好をした乃鈴が立っていた。この服もデカメロンが用意したものなのだろう。不思議なことにサイズはピッタリであった。
「えへへ! どう?」
「とても似合っているでござる! うひょー!」
「ええ! とても似合っていますよ!」
デカメロンたちが興奮しながら、乃鈴に近づく。その姿は、まるで変質者のようで――
「むうぅ」
葉子が怒っている。
当然だ。大切な友達にそのような視線が向けられては、気分を害するだろう。
「あ」
「キート、ちょっと話があるけど――いいわね?」
「な、なんで僕だけ! ちょっ、待っ!」
葉子が鬼衣人を連れて、どこかへ消えた。
向かった先で何があったかは、誰も知ることはできなかった――
「どこへ行ったでござる? せっかく葉子や雪上の分も用意したのに」
「その話、本当なの?」
「あ」
珍しく冷や汗をかくデカメロン。
「違う! 決して拙者はコスプレ好きの変態忍者ではない!」
「そんなことは一言も言っていないの」
「あ」
「メロン? 一番好きなコスプレは、もちろん巫女服だよね?」
「え? 拙者が好きなのは海賊――」
「巫女、だよね」
「はい……」
いくら忍者といえども――否、忍者だからこそ主君である乃鈴の言うことには逆らえないデカメロンであった。
その後、乃鈴がインターネットの通信販売で、こっそり海賊の服を買ったことを知った葉子がデカメロンを雨傘で突きまくるということがあったのだが、それはまた別のお話。
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