【やぎ座の運勢、程々の日】

#32 それ、私のおやつ

「それで? 一先ず問題解決部は、この『被害亡き通り魔事件』を終わらせたのね?」

「まあ、そういうことになるかも、な」


 十二月二十四日、クリスマス・イブの昼。


 的当は自身が通う土湖花野学園の風紀委員会室に呼び出され、事の顛末を知っている範囲で語った。相手は高等部一年生にして風紀委員会副委員長を務める継内ヒトミである。


「実行犯とされる神殺しシャットダウンの魔女――【殺神姫シャットダウナー】は証拠不十分により、釈放。裏で魔女を操っていたガイアコレクションの【罪深き魔王たちシンフル・イズ・ベスト】の一人を逮捕できたものの、警察の取り調べに対して奇声を発し、まともに供述しない――ふざけた報告書ね」

「仕方がないだろ。実行犯は死者で、現場の証拠も一切残していないし」

「まさか、雪上さんに妹さんの魂が移植されていて、実行犯は妹さんの方で――現在、想造力学者たちが束になってこの現象を証明しようとしているけど、誰も答えを導けないという理由で、司法取引が成立。雪上さんはとりあえず社会生活を認められた」

「その代わり雪上はこの街から一生出られなくなったわけだ。しかも、監督者の目が届く範囲でしか生活できない。いやあ、良かったじゃないか継内。お前の嫌いな悪とやらが、不自由を強いられ、この陸の孤島に死ぬまで拘束される。お前の大好きな正義の勝ちだ。もっと喜んだらどうだ? 問題は解決! さあ、アンサーズの部費向上を生徒会に掛け合ってもらおうか! ついでにお前には鼻からトマトジュースも飲んでもらおう!」

「その監督者が何で、あの男なの! 胃が痛くなるような状況に変わりはない! しかも、私は鼻からトマトジュースを飲むような約束はしていない! 訴えましょうか!」

「訴訟、しよう。そうしよう――ふふっ」

「ちっとも面白くない! ふざけないで!」

「知らないのか? 笑いのトリプルアクセルが今、俺の中で流行していることを」

「どうせ、あの男からろくでもない影響を受けたのね!」

「まあ、落ち着けよ」


 何故、的当はこのようなことをしているのか。


 それはアンサーズを、問題解決部を創設した時に交わした生徒会との約束に理由がある。


「はぁ……大和くん、少し休憩しましょうか」

「じゃあ、このクッキーいただきます」


 ヒトミの了承を待たずに、机の上にあったクッキーに噛り付く的当。


「それ、私のおやつ……いえ、なんでもないわ」


 彼女は咳払いをして、平静を保った。


「あなたが真面目なのか、それ以外の人間なのか、よくわからないわ。あの男のように、ふざけたことを言うこともあれば、生徒会との約束を守ることもある」

「創設の条件くらい、守るさ。解決した問題について、風紀委員会に報告すること――これを守らないと、真矢の居場所が無くなってしまうからな」

「世知崎さんは、元気?」

「医者が言うには、歩行練習ができるようになれば――」

「そう……」

「継内は真矢と仲が良かったからな。心配する気持ちはわかる」


 的当はクッキーの袋をゴミ箱に捨てると、壁に掛けてある時計を見た。


「今日、何かあるの?」

「実は真矢の一時的な退院が認められてさ。今日、メメント森廃教会でクリスマスパーティーを開くことになったんだ。お前も来るか?」

「いえ、遠慮しておくわ」

「そうか? 歩亜郎に会わなくていいのか?」

「な、なんであの男の名前が」

「あいつは風紀委員だった。お前とは元同僚だし、そろそろ仲直りでもしたらいいのに」

「悪よりも悪い悪、だったかしら。そんなふざけた存在になろうとする男には会えない」

「歩亜郎はふざけてなんかいないけど、な」


 的当が席を立つ。サンタクロースを待ち望む子どものような表情を浮かべながら、ヒトミに一言声を掛けて、部屋から出ていく。


「クッキー、ごちそうさま。悪いけど、俺行くわ」

「続きは後日聞くから。世知崎さんによろしく」

「ああ」

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