#31 勘違いしないことね

「お前ら! よくも! よくも、よくも!」


 倒れたスティーヴンに駆け寄り、ドゥンガリーが喚き散らしている。


「正義の味方にでもなったつもりか! 僕たち悪を懲らしめて満足なのか!」

「満足だ、と言えばお前は満足するのか?」


 虫眼鏡をウイルス状に分解し、収納した歩亜郎がドゥンガリーに近づいていく。


「や、やめろ! 来るな……来るな!」

「他の連中はどうだか、知ったこっちゃないが。少なくとも僕は、悪よりも悪い悪なのだ」

「ひぃっ!」

「僕は正義ではない。ならば、悪なのか? 違う。だから」


 歩亜郎は――ドゥンガリーに手を差し伸べた。


「お前たちには僕と一緒に、警察へ行ってもらうのだ。そこにいる雪上姉妹とともに、な」

「警察? そんな連中の言いなりになんかなるものか! 言いなりに、なんか」

「僕とあの双子――そして、お前たちは想造犯罪者として、然るべき処分を受け――」

「そこまで、よ」


 ドゥンガリーの手が、歩亜郎に触れようとしていたそのときであった。


「そういう茶番、イライラするのよね」

「馬鹿兄貴! 上よ!」


 葉子の声が聞こえ、歩亜郎は空を見上げる。


 そこでは竜――ドラゴンを模したヘルメットを被り、ウイルス状の翼を展開した少女が滞空していた。


「新手の刺客か」


 歩亜郎が身構えるが、少女、アシュリアーナは彼を無視してドゥンガリーに呼びかける。


「ドゥン兄、帰るわよ」

「アシュリアーナ! スティーヴン兄さんが!」

「残念だけど、その兄さんは廃棄よ」

「そんな! いくら何でもそれは!」

「本部で復元してもらえる。今ここに留まることは、得策ではないわ」

「でも!」

「そういう態度、イライラするからやめてくれないかな!」


 アシュリアーナの顔に、怒りが満ち溢れていく。彼女から放たれる憤怒に、アンサーズの面々は立ち尽くすことしかできない。気圧されているのだ。


「わ、わかったよ」

「合流地点は、予定通りの場所。いいわね?」

「ああ」


 ドゥンガリーが背中にウイルス状の翼を展開する。


「逃げる気か!」

「戦力的撤退よ。勘違いしないことね」


 アシュリアーナのヘルメット、その竜の口が大きく開く。


 口の中央に、電気が集中していた。


「皆! 伏せろ!」


 的当の指示で、アンサーズの面々は物陰に隠れて、身を守った。直後、竜の口から雷雲が発生して、地面に向かって雷を落としてくる。


「ま、待て!」


 雷が止み、辺りを見渡す的当。


 この場に残ったものは、アンサーズの面々そして――


「ジェラ……ジェララ……ジェラシシイ……」


 壊れた玩具のように奇声を発し続ける、スティーヴン・クライムの姿であった。

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