#30 こんな結末を、僕は認めない
「じゃ、帰るか。俺たちの居場所へ」
また一つ、問題を解決した満足そうな的当を先頭に、メメント森廃教会へ向かおうとする歩亜郎たち。これからが大変だ。的当は強くそう思った。
この一連の事件の事後処理や報告書作成が、アンサーズには残っているからだ。
「さてと! 市長や生徒会にどう説明すればいいもんかな!」
「簡単ですよお。魔女が全てを殺し、物語は終わりを告げましたとさ――ってねえ!」
「おいおい、誰だ? そんな打ち切り漫画みたいな終わり方をさせるのは――」
「誰って、私ですよお!」
声のする方向を的当が見上げる。彼は咄嗟に、日頃から鍛えていた運動神経で飛来してきたソレを避けた。すぐに彼は後方の歩亜郎たちの安否を確認する。
「無事か!」
「は、はい!」
「どうやら黒幕ってヤツが、現れたみたいなのだ」
歩亜郎が睨みつけたその視線の先に、立っていた人物。
奇妙な仮面を着けて、槍を拾い上げながら嬉々として歩亜郎たちを見つめる男。
「スティーヴン兄さん。先走りすぎだよ」
更にもう一人、仮面を着けた人間がこの場に現れた。体格は最初に現れた男よりも少々小柄であったものの、放つ威圧感はただでは済まないものであった。
「ガイアコレクション! 今更、何の用だ!」
彼らが秘密結社ガイアコレクション、今回の事件の元凶であることを認識した的当は、すぐに臨戦態勢を取った。アイ・システムを起動し、
「全ては計画のため、ですよお! クリスマス・クライシスを決行するための、ねえ!」
「クリスマス・クライシス? ふざけた計画なのだ!」
「私たち自ら【
「一舞たちは、もう、魔女にはならないのだ!」
「いいえ、なってもらいます――強制的にね!」
仮面の男、スティーヴンが片手で注射器のようなものを掲げる。
「この中には! 我が弟、ドゥンガリーのアナムネーシス・ウイルスを増幅させるように改造を施したアンロックがうようよ漂っています! これをあなたに注入すれば、めでたく魔女は復活です!」
「お前の殺意という名の欲望は、僕の意のままに操れるわけさ」
「させるか!」
的当が注射器を狙撃する。
「おっと! せっかちですねえ!」
しかし、スティーヴンのデリケイト・シールドが銃弾を防いだ。
「はっはっはっ! さあ、欲望を――解き放ちなさい!」
注射器を搭載した槍が、一舞の方へ投げ飛ばされていく。それは加速を繰り返し、一舞の身体へ急接近した。避けられない。直観的に彼女はそれを理解した。
「僕を、怒らせるな!」
そのときであった。
突如、出現した掃除機によって、槍が吸引されていく。槍はウイルス状に分解され、最終的に掃除機へ吸い込まれた。注射器とともに、吸い込まれたのである。
「【
吸い込まれたアナムネーシス・ウイルスは性質が逆転し、無害となって霧散した。
「これは」
歩亜郎はこのコンビネーションに、とても覚えがあった。
「ちっ、面倒なヤツが来たな」
スティーヴンの隣にいた少年、ドゥンガリーが露骨に、嫌そうな舌打ちをする。
「的当! どうやら拙者たち、かなり良いタイミングで参上できたようだ!」
「メロン、グッジョブなの!」
さらにフルフェイスヘルメットを被った少年と、巫女服の少女がやってくる。
「メロン! 乃鈴! それに、あいつらは――」
「葉子! お兄ちゃんを助けに来てくれたのか!」
「キートのこともカウントしてやれよ……」
この場にやってきたのはデカメロンと乃鈴、そして葉子と鬼衣人であった。
「お前たち」
今、ここに――アンサーズが集結した。その心強さを、的当は痛感した。
「何故、魔女がこちら側にいるのか、事情は知らん。だが、状況の理解はできた!」
「要するに、あの人たちを」
「ぶっ倒してしまえばいいのね?」
「フルボッコなの!」
デカメロンたちも、
「非常に助かる――行くぞ、アンサーズ!
「何ですか、その連帯感! 嫉妬しちゃうでしょうがああああああああああああっ!」
スティーヴンが絶叫する。そして、自らの内界を具現化し始めた。
「想像せよ、獄園の創造を――我は嫉妬に、狂い咲く者なり!」
「【
「想像せよ、劇場の創造を――我は答えを、炎じる者なり」
「【
「【
スティーヴンはとぐろを巻いた罪深き蛇の牢獄を、歩亜郎は火柱で演出された劇場を顕現した。同時に
このような場合は、世界を先に上書きした方が、理の実権を握ることができるため、強い
要するに、
「歩亜郎の炎が俺たちの魂に火を点けてくれた! いつもより、思い切りやれるぞ!」
「応!」
「かしこまり、です!」
的当の合図で、デカメロンと一舞が前へ飛び出す。
「【
デカメロンが分身して、スティーヴンたちを取り囲む。
「兄さん、来ているよ」
「ああっ! ジェラシイイイイイイイイイイイイイイイイイィッ!」
それに対して、スティーヴンが槍を振り回して分身を次々と倒していく。
「本体はそこですね! この戦術、嫉妬しちゃうでしょうがああああああああああっ!」
槍が、デカメロン本人に向かって、飛んでいく。
「一無! 【
「(任せてよ!)」
その直前、一舞の魂が裏返る。一無と交代したのだ。
「【
殺意の理論、その答えが告げられ時間が静止する。時の概念が亡くなったのだ。
「お姉ちゃん!」
「(ええ!)」
再び魂が裏返る。そして、今度は一舞が
「【
槍の射出方向を変え、スティーヴンの方へ追い払った。
「甘いね。今のお前は殺意が足りない。だから、僕は動ける。全員は止められない」
方向が変わった槍を、ドゥンガリーが九本の尾で、掴み取る。反撃が受け止められる。
「まさか、貴様たちに助けられるとは――感謝する!」
「迷惑を、掛けましたからね!」
一旦、デカメロンと一舞が後ろへ下がる。それを追いかける九つの尾。
「僕を、僕たちを!」
「怒らせるなって、学校で習わなかったのかしら?」
そんなドゥンガリーに対して、掃除機と雨傘を構えた鬼衣人と葉子が突っ込んでいく。
「葉子ちゃん!」
「ええ! オーガ・ディザスタァ!」
掃除機と雨傘が交互に、隙を見せない動きで、九尾を連打する。彼らの
「今よ、的当!」
「アブソリュート・・シューター、フルバースト!」
的当が光線を放射する。光線を受けたドゥンガリーは的当のウイルスに身体を侵食され、もがき苦しむ。
「な、なんだこいつら! 欲望を暴走させることができない!」
「当然なの! だって皆、そんなモノを解放するまでもなく、強い意志を持っているもの!」
乃鈴の背後に出現した本棚から、本が数冊飛び出し、ページでドゥンガリーを挟み込む。
「馬鹿な! 動けない! この、僕が! こんな、簡単に!」
「こんな簡単に? 何だって? 聞こえねえなあ!」
歩亜郎から分離した歩和郎が、白縁の虫眼鏡を力任せに叩きつけた。
「打撃と斬撃の円舞曲を味わいなあっ!」
そして歩和郎は、おまけと言わんばかりにドゥンガリーを上空へ蹴り上げた。
「歩亜郎! 受け取りやがれ!」
直後、歩和郎は虫眼鏡を天に放り投げ、己の肉体を霧散させる。
「最高にデリシャスなのだ」
それを受け取る歩亜郎。彼の
「【
更に、受け取った虫眼鏡を、自身の虫眼鏡に連結した。そのままそれを回転させて、ドゥンガリーを斬り刻んでいく。いくら
「雪上一舞!」
「準備万端です!」
ドゥンガリーを地面に叩き落とし、それを追いかける歩亜郎。
一舞と合流して、ドゥンガリーを見据える。
「シューティングスター・ブラスター!」
「フォーマルハウトオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオッ!」
流星群と熱線を同時に発射する歩亜郎たち。
「認めない! こんな結末を、僕は認めない!」
「ええ、認めなくていいですよお。あなたは私が守ります。兄弟ですからねえ」
ドゥンガリーの前に立ち、デリケイト・シールドを展開するスティーヴン。
「兄さん! 何で!」
「あなたはこれからの計画に必要な存在――しばらく留守を頼みますよお」
「ま、待ってよ兄さん! 兄さんがいなくなったら、他のヤツらが」
「嫉妬、しちゃいますねえ。こんなに兄想いの弟がいる、自分自身に」
デリケイト・シールドが粉砕され、流星群と熱線が放射される。
「兄さん! アシュリアーナが悲し――」
「ああっ! ジェラシイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイッ!」
後方へ吹き飛ばされるスティーヴン。今の攻撃で、彼の内界が弱まり始めた。
「【
「シャットダウン・アンサーズ!」
その瞬間であった。
急接近した歩亜郎と一舞が、スティーヴンを同時に斬り伏せた。
「これが、僕たちの――ファイナルアンサー、だ」
「なる、ほど。アンサーズ、覚えて……」
その言葉を残して、スティーヴンは倒れる。的当は『実験』の終了を確信した。
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