#11 器同士、仲良くしていただこう

「アイル様。スティーヴン・クライム、ここに参上致しました」

「アシュリアーナ・クライム、同じく参上」


 太平洋のどこかに存在する人工島、ネヴァー・ネヴァーナ島。


 そこでは四季市市役所で歩亜郎たちと戦った仮面の男と、よく似た仮面を着けた少女がアイルと呼ばれる男に謁見していた。


 仮面の男たちの前にいるアイルとは何者なのか。


「魔女のデータはちゃんと収集できているのか?」


 そう、彼こそが秘密結社ガイアコレクションのリーダー、アイル・ビーハピーである。


「はい。ご命令の通り、魔女を四季市市内にて放流。データ計測は継続中です」

「しかし、本当によろしいのですか? 魔女はまだ目覚めていませんよお?」


 仮面の男、スティーヴンがアイルに物申す。


「だからこそ、だ。あの街には被験ナンバー九十九、【オリエント】がいるだろう」

「【オリエント】、ですか?」

「ああ。今は九十九歩亜郎――【明探偵ディテクティブ】と名乗っているみたいだが」

「そういうこと、ですかあ。だから聞き覚えがある名前だったのですねえ」

「魔王の器と、魔女の器。器同士、仲良くしていただこう」

「そして大いなる世界遺産を、我らの手に」

「失礼致します」


 リーダーの部屋を出たスティーヴンとアシュリアーナはそのまま施設内の廊下を歩く。


「スティーヴン兄さんはこれからどうするの?」

「愚問ですよお、我が妹よ。私はこれから、再び四季市に向かいます」

「私も行く」

「ダ、メ。私は一人だけで、ツクモポアロウと魔女たちに嫉妬したいので。彼らへの嫉妬心は、私だけのものです」

「変態」

「なんとでも言いなさい。私は【罪深き魔王たちシンフル・イズ・ベスト】の一人として、己の罪に溺れたいだけなのですよお」

「まあ、いい。だけど、私を怒らせるようなことはしないことね」


 アシュリアーナはスティーヴンと別れると、施設の外へ出て行った。他に任務があるのだろう。あーあ、プリプリしちゃって。可愛い妹だ――スティーヴンは仮面の下でニタニタ笑うと、自分も目的地である四季市へ向かうことにした。


「我が翼望よくぼうよ、今ここに」


 スティーヴンの背中に、一対の翼が展開する。


 否、正確には翼ではない。これは彼のアナムネーシス・ウイルスが集合して翼のような形を作っているだけだ。スティーヴンは翼を制御して、太平洋上を飛翔する。


「魔王の器と魔女の器。しかし器は所詮器でしかない。本物には及ばないのですよお!」


 奇声を上げながら笑うスティーヴン。


 ガイアコレクション幹部、罪深き魔王たちシンフル・イズ・ベストに所属する彼の答想者アンサラーとしての識別名コードネーム、それは嫉妬魔王レヴィアタン。大罪属性のウイルスを身体に宿した。生体兵器の一人。


「ああ、ジェラシイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイ!」


 仮面の下の、狂おしき嫉妬に誰も気づくことはない。


 スティーヴンは日本に到着すると、待っていた現地の手下たちとともに四季市へと潜入した。市内への潜入方法は、残念ながら既に確立されている。誰も彼らに気づかない。


 魔王、再来訪。最悪の災厄が、四季市に訪れようとしていた。

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