第2話 満月神社

 満月神社は、別名縁結び神社と言われてるんだって。


 失恋した人が満月神社に参拝してから境内の神社カフェで『コンコンいなり寿司』を食べた。そうしたら恋人が出来た人が続々と出ているかららしい。


 幸せな御縁が運ばれてくる神社だよって、大人気みたいなんだ。

 満月神社での結婚式も縁起が良くて、挙げれば幸せな結婚になると予約待ちのカップルが一年先までいるとか。



 期末テスト最終日で学校が午前中に終わって、僕は小枝ちゃんと満月神社にやって来た。

 こじんまりとしてはいたけど、満月神社はなんだか良い雰囲気を感じる。

 清らかな風、心地よい木漏れ日。

 白い鳥居をくぐった後、赤い鳥居がずらっと並んでいる。

 千本鳥居と言うんだそう。

 一つ一つくぐる度に、自分たちの住む世界とは離れて行くような不思議な気持ちになった。


「伊呂波くん、なんだろう。あの人たちコスプレしてるのかな?」

「コスプレ?」


 鳥居を抜けた先に見えた満月神社にはたくさんの参拝客がいた。

 皆、動物の耳がついていたり尻尾がついていたり……。きつねに化け狸、ぬりかべ、かっぱに豆富小僧に小豆洗い、赤鬼青鬼に天狗の格好の人もいる。

 どの人も絵本なんかで見たことのある妖怪の姿をしてる。


 行列の一本は神社のお祈りする場所へ。

 もう一本はカフェの入り口に続いている。和風の古民家カフェは茶店を少し現代風にした様な外観だ。

 お店の前に赤い毛氈もうせんを敷いたベンチが並んで、金や銀や紅白の大きな和傘が何本か立っている。この和傘、後で調べて知ったんだけど、野点傘のだてがさって言うんだって。


 僕は場の不思議な雰囲気に、完全に圧倒されていた。

 小枝ちゃんはくりくりとした瞳を、パチクリさせている。


「今日の満月神社は、妖怪のコスプレをして参拝する日なのかな?」

「何かのイベントかもしれないよね」


 僕と小枝ちゃんは神社の拝殿前に向かう行列に並ぶことにして、最後尾に立った。

 僕らの他には制服姿の人はいない。

 なんか急にドキドキしてきた。

 まさか、ね。

 異世界に迷い込んだみたい?

 そんな、まさかね。そんなことあるわけないよ。

 僕は急に心細くもあって。胸の中がざわざわとさざ波がたって落ち着かない。

 ……ただ。

 小枝ちゃんが横にいるから、仕方なく僕は平気なふりをしてた。

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