縁結び神社のコンコンいなり寿司

天雪桃那花(あまゆきもなか)

第1話 縁結びいなり寿司

 僕は昨日、人生初めての恋で人生初めての失恋をした。


 小学校からずっと友達で大好きだったなぎさちゃんにこっぴどく振られた僕は、暗い気分をひきずったまま修学旅行委員会に参加した。

 気の弱い僕は半ば押しつけられて委員会のメンバーになった。

 そこには、同じクラスで渚ちゃんとも僕とも友達歴の長い小枝こえだちゃんがいた。


「大丈夫? やっぱり渚ちゃんに振られたんだ? 引っ込み思案の伊呂波いろはくんにしては頑張ったよ」


 小声で話す小枝ちゃん。

 やっぱりって……。


「伊呂波くん、もうそんなに落ち込まない。だって渚ちゃんは元々望み薄だったじゃない? 渚ちゃんはずっと深瀬くんのこと好きだって言ってたからね。私たちも渚ちゃんの気持ちをよく聞いてて、応援するって約束してたわけだし」


 そうだ。渚ちゃんは僕の親友の深瀬のことをずっと好きで片想いしてる。深瀬は鈍感だから気づかない。バレンタインデーに毎年特別な気持ちのこもったチョコレートをもらっていても、気づかないんだ。

 僕は羨ましかった。


「ねえ、明日の放課後、私と一緒に満月神社の『流れ星喫茶』に行ってみない?」

「満月神社の『流れ星喫茶』?」

「私も最近失恋したから『流れ星喫茶』に行ってみたくて」


 失恋と『流れ星喫茶』がどう関係があるんだろう?

 あっ――、今、小枝ちゃんも失恋したって言った?

 小枝ちゃんはいったい誰に失恋したんだろう……。


「小枝ちゃんも失恋したんだ。ごめん、僕ばっかり相談に乗ってもらっちゃって。泣き言ばかりで」

「ううん、良いの。伊呂波くん、私たち失恋仲間だね。失恋した人が満月神社に参拝して『流れ星喫茶』で縁結びいなり寿司を食べると新しい恋に出会えるらしいの」

「新しい恋、か」


 僕は失恋したばかりで、まだまだそんな気分になれないけれど……。


「ねっ? 伊呂波くん一緒に行こう」

「うん」


 僕はすぐには新しい恋はいらない。

 でも、いつも僕の話を聞いてくれる優しい小枝ちゃんには新しい恋を見つけて失恋の痛手を癒やしてもらいたい。

 そう思ったんだ。

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