第8話
「ただいまー……」
やっと家に辿り着いた。外、寒すぎだろ。
「おかえり。寒かったでしょ?」
俺の声を聞いてか、リビングから母さんがお出迎えしてくれた。
「寒すぎて冬眠したいレベル」
母さんがクスッと笑うと、俺の方に手を差し出してくる。俺はすぐに意図を理解し、手に持っていたプリン入りビニール袋を手渡した。
「
「楓ならお風呂に入ってるわよ」
「そうか」
好感度を下げるために風呂突撃を考えたのだが、両親がいる以上怒られるのは目に見えているから諦めよう。
「とりあえず家に上がったら?」
「あ、そうだった」
靴を脱ぎ、家に上がる。
すると、一階にある洗面所の方から楓の鼻歌が微かに聴こえてくる。
(あいつが鼻歌なんて珍しいな……)
そんなことを思いながらリビングへと向かい、ソファーに腰を降ろす。テレビではお笑い番組をしていたが、中々内容が頭に入ってこない。
「…………」
ソファーに寝転び、クッションを枕代わりにする。
今日は本当に疲れた。
朝は初めて楓と登校するし、昼食なんて楓が俺の教室に突撃してくるし、放課後はいきなり泣き出すし……楓しかいねぇじゃん俺の学園生活ッ!
なんだか虚しくなってくる。
俺の描いていた学園生活は、男子同士で遊びに行くとか、異性と話すとか……そういうのじゃないのか?
楓も異性だが、家族であり俺の妹だ。一人の異性として見れない。
(あー……眠い)
駄目だ……まだ風呂にも入ってないのに、ここで眠ってしまったら……、でも眠い。……いや、駄目だ……ろ──
────
─────────
「…………ん」
あれ。もしかして俺、寝てしまったのか? いや、さっきまで意識はあったような気もするが……うん? これは……枕か? 物凄く柔らかくて、甘い匂いがする。
「あ、やっと起きた」
「……、──?!」
瞼を上げると、楓が俺を見下ろしていた。
というか、この体勢って……膝枕?! 俺が楓に膝枕をされてるのか?! じゃあ、この柔らかい枕って……膝じゃん。知ってた。
急いで身体を起こし、辺りを見渡す。そこに母さんと父さんの姿は無かった。
「……今、何時だ?」
「もう二三時だよ? お兄ちゃん寝すぎー。寝るなら私と一緒に寝ようよ」
「どこにこの歳で妹と一緒に寝る兄がいるんだよ!」
(待てよ……俺が寝ている間に襲われてないよな?!)
俺はすぐさま服の乱れを確認し、異常があるか確かめてみたが……無かった。安心したせいか、ほうっと息が漏れる。
「……よし、風呂でも入る──」
「待って」
リビングから出ていこうとした俺に楓が制止の声をかけて来たので、顔だけ向ける。
そこには、柔らかく微笑む楓がいた。
「今日はありがとね、お兄ちゃん」
「……?」
一体、何が「ありがとう」なのか分かりかねるが、感謝の言葉を貰って悪い気はしないな──
(……って、駄目じゃん! 俺は楓からの好感度を下げないといけないのに感謝されちゃぁ!)
今日は、失敗に終わったらしい。
こうなったら、明日からは本気で楓の好感度を下げてやろう。それと、楓が嫌がることについて調べるのもありだな。
(とりあえず風呂に入るか……)
俺は軽くシャワーを浴びて、すぐに自分の部屋のベッドに横たわり、瞼を閉じた。
◇
お兄ちゃんがリビングから出ていった後、私は一人でソファに座っていた。壁掛け時計の音がカチ、カチ、と規則的に響くだけ。
私はキッチンにある冷蔵庫の方に視線を向ける。
あの中に、お母さんが私の為に買ってきたプリンが二個あると聞いたけど、あれはお兄ちゃんが買ってきた物だってすぐ気付いた。
なぜなら、お兄ちゃんが寝ている間にポケットからレシートがはみ出ているのを見つけ、確認してみると、コンビニでプリンを二つ購入したことが記載されていたから。
(やっぱり……お兄ちゃんは優しい)
私にとって、お兄ちゃんはヒーローであり、命の恩人でもある。
私が人生に絶望していた時、お兄ちゃんだけが手を差し伸べてくれた。毎日お兄ちゃんには素っ気ない態度を取ってしまっていたのに、それでも私を見捨てないでくれた。
(昔の私を叱りたくなるなー……)
今年に入ってから、お兄ちゃんに対する私の気持ちが百八十度も変わったと思う。
なぜ私は、お兄ちゃんを嫌っていたのか……分からない。小学生の頃はたくさん、一緒に遊んだのに。
(明日はどんな風に接しようかなー)
朝起きたら私が添い寝していた? いいかもしれない! それなら、寝ているお兄ちゃんの頬にキスだって……!
……でも、部屋に忍び込むのは禁止されてるんだった。
(どうやったら、お兄ちゃんの好感度を上げれるのかな?)
お兄ちゃんが私に望むことってなんだろ。
お兄ちゃんのためならパシリだってするし、私にやって欲しいことも全部する。デート……とかいいかも。
でも、私と一緒に出かけようとしないから、難しそうだなー。
そうだ! 妹に関する本を全て読んで勉強しよう! 最高の妹になって、いつしかお嫁さんにしてもらう為に……!
……そういえば、血族同士は結婚できないって……いや、そんなわけないよね!
「えへへ、明日から本気で私への好感度、上げちゃうんだから」
ソファに置いてあったクッションをお兄ちゃんだと思って、強く抱きしめた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます