8.可愛さがいつもの10倍でやべぇ【蒼世】

 待ち合わせは、11時30分に時計台前。現在の時刻は11時25分。俺が来てから10分経ったが、知り合いや、同じ学校の奴は……いなさそうだな。けど……。


「あの、お兄さん一人ですか? よかったら私と……」

「…………」

「………あ、な、なんでもないでーす……」


 さっきから声掛けられまくってて迷惑なんだが。俺の目つきの悪さは筋金入りだから睨めばどっかに行ってくれるが、生憎好きな子以外に興味はないので正直うぜぇ。

 ヤンキーが早めに来るのは有り得ねぇって? 好きな子の前で遅刻なんてだせぇことしたくねぇし、ヤンキーなら誰だって遅刻魔で喧嘩してから来ると思ったら大間違いだっての。

 そんなこんなで待っていると、待ち合わせ時間ぴったりに待ちわびていた人の声がした。


「設楽くん、お待たせ」


 …………………………天使……っ!


 水色と白のストライプのワンピースに、編み込みハーフアップ。靴もワンピースに合わせた色のパンプスで可愛らしい。

 いつものポニテもいいがハーフアップも最高だな。世界一可愛い。何なんだ、こんな可愛い人が存在するのか? 存在してんだよ、それが俺の惚れた女だよ……!

 なんて思っているのがバレないように、いつものようにぶっきらぼうに答える。


「別に待ってねぇよ」

「設楽くん、来るの早くない?」

「男が女を待たせる訳ねぇだろ」

「……あーそう。あ」


 そう言って俺にいきなり顔を近づけてくる。え、何だよ? 近っ……。そんな可愛すぎる顔近づいてきたら勘違いする奴いるぞ、俺でよかったな。と思っていることも露知らず、嘉納が呟いた。


「今日はピアスしてないのね」

「…………あー、まあな」

「珍しいわね、どうしたの?」


 やっぱ変だったか? いや、普段は付けてるけど、嘉納が言ったからだろ。「ピアスなんてしてない方が好き」ってお前が言うから……。

 とは言えないので、適当に誤魔化す。


「……今日新しいの買って、服に合うの付ける予定なんだよ。文句あっか」

「……文句はないわよ? ただ、学校でもそうしてほしいわね」

「は? ふざけんな、無理に決まってんだろ。調子乗んな」

「痛っ! ちょっと手刀するなんて酷くない!?」

「加減してるわばーか」

「でも痛いものは痛いんだから」


 ほっぺ膨らませて拗ねてる、可愛い。格好もそうだが、学校という場ではないからか、いつもの10倍くらい嘉納の全てが可愛いんだが。そんな顔初めて見た。可愛すぎる、天使か。

 そう思った俺は自然と嘉納の頭を撫でる。


「……悪かったよ」

「っ、い、いや、別に、その、次からはやらないのならいいのよ」


 え、何だその反応、可愛すぎるだろ。何だよ、「ぷいっ」て。そんな顔一度も見たことねぇぞ。でもそんな嘉納も可愛くて好きだ。ってやべぇ、顔とか言葉に出たら終わるよな……。

 そう思った俺は嘉納から距離を取って告げる。


「はいはい。で、行くんだろ、飯。何食いてぇの?」

「私はなんでもいいわ。そもそもお礼なんだから設楽くんが決めてよ。設楽くんが好きなものにしましょ」

「……じゃ、ハンバーグ」

「あら、いいじゃない! ハンバーグにしましょ!」


 そうしてスマホで近くのハンバーグ店を検索して入れそうなところを予約して、店に向かおうとしたその時、嘉納が申し訳なさそうな声で俺を呼んだ。


「し、設楽くん」

「あ? んだよ?」

「あ、あの……私、方向音痴だから、その、置いてかないでね?」


 ……………………………………………………。


 いつもと違う服と髪型。不安そうな顔と上目遣い(身長差あるんだから当たり前なのだが)。


 やべぇ。


 俺が顔を背けると、不安そうな声が後ろから聞こえてくる。


「設楽くん? 聞いてる?」

「…………適当に服掴んでろ、でなきゃ置いてく」

「あ、はい」


 そう返事して、嘉納は俺が着ているトレンチコートの腰辺りをきゅっと掴んでくる。


 やべぇ、可愛すぎる。どうにかしてくれ。俺、今日、生きて帰れるんだろうか。


 必死に顔に出るのを隠そうとして眉間の皺や目付きの悪さが凄いことになっているだろうと思いながらも、絶対に「好き」だということを悟られないように嘉納の方を向かないで真っ直ぐ店に向かった。

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犬猿すれ違いLOVERS 煌烙 @kourakukaki777

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