6.お疲れ様の缶ジュース【柚葉】

「あー……つっかれたー……」


 委員会の準備や先生への提出物、いつもより数が多い風紀の取り締まりなど、今日は仕事が多かった。放課後になって解放された私は、風紀委員会が使っている教室でひと息ついていた。

 眠いな、今日の小テストの勉強して寝るの遅かったのもあってすごく眠い。ちょっとだけ寝てもいいかな。でも誰か来る予定だったよね。誰だっけ?

 そう思いながら天井の方に顔を向けてうとうとしていると、真上から大好きな声が降ってきた。


「おい、呼び出しておいて寝てんじゃねぇよ」

「へっ? わぁっ!? いっっっったぁ……」

「〜〜〜っ……」


 私はおでこを、設楽くんは顎を押さえながら痛みを堪えていた。めっちゃくちゃ痛い……っ!


「てめぇ……っ、いきなり顔上げやがって……」

「ごめん! でも、それは設楽くんが……っ!」


 設楽くん好きな人が急に現れたらそりゃびっくりするでしょう!! 


「あ? 俺が、何だよ?」

「な、なんでもないです……」


 ……なんて言える訳ないじゃない!! 設楽くんが来ることをすっかり忘れてた。うー、私のバカ、そんな大事なことを忘れるなんて、疲れすぎじゃない? はぁ、今日は早く帰って寝よう。

 心の中でそう思っていると、設楽くんが不機嫌そうに睨んでくる。


「……寝るのは俺への用件を終わらせてからにしろ」

「ご、ごめん。えっと……これを渡したくて」

「何だこれ?」

「反省文の原稿用紙よ。今日までの1ヶ月、校則破りまくってたでしょ? 本当は1つ破るごとに反省文があるんだけど、設楽くん多すぎるからまとめて書いて欲しいの」

「断る」

「書かなきゃ一週間ピアス没収して即家庭連絡って生徒指導の糸魚川いといがわ先生が言ってたわよ」


 そう伝えると、設楽くんは大きな舌打ちをしてから席について手を差し出してきた。


「早く紙寄越せ」


 言う通りに紙を渡すと、設楽くんはもくもくと反省文を書き始めた。相変わらず綺麗な字だなと思いながら、私は設楽くんが書き終わるまで彼の手元を見ていた。


 はずだった。


「……はっ……やばっ! 寝てた……って冷たっ!」


 飛び起きた私の手に何か当たってびっくりして、そっちに目を向ける。

 え、何これ。缶ジュース? 一体誰が……。そう思って周りを見回すと誰もおらず、机の上に完成された反省文と可愛らしいクマがお疲れ様とお茶を差し出しているイラストのついたメモが置いてあった。そこには反省文に書かれたのと同じ字で短くこう書かれていた。


【間違えて買った。やる】


 缶ジュースを置いていった人物が分かると、胸がとくんと音を立てた。


「ふふっ、設楽くんの嘘つき」


 そう誰にも届かないような声で呟いてから、開けて飲んだ缶ジュースはすごく優しくて甘い味がした。

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