7.クソ真面目ちゃんとの取引【蒼世】
ピアスを没収されて絶賛不機嫌中の俺である。
くっそ、糸魚川め。体育担当の佐々木に俺を追わせるとは……。佐々木って50m走、確か6秒台だろ、逃げ切れる訳がねぇ。はぁ、予備のピアスは付けてるけど、お気に入りのピアス取られたおかげでやる気出ねぇ。どっかで授業サボるか。
なんて思いながら、教室の扉を勢いよく開けたら、目の前で小さな悲鳴が聞こえる。
「きゃっ!? ……って、設楽くん?」
「嘉納……」
嘉納と会うのは反省文を書きに行った昨日ぶりだ。相変わらず可愛いな。ビビらせてごめんな。と思ったものの、素直にそう言えるはずもなく、俺は素っ気なく告げる。
「ビビりすぎて間抜け面だぞお前」
「……もっと優しい言葉をかけられないのかしら」
「はっ、誰がお前なんかに」
本当は言いたいんだけどな……。なんて思っていたら、嘉納に少しだけ時間あるかを聞かれて頷くと、彼女が俺の手を掴んできた。
「ちょっとこっち来て」
「は?」
何だ何だ? いきなり人気のない所まで連れて行かれて、何が何だか分からねぇ。てか、手!そう思いながらついて行くと、嘉納が口を開いた。
「設楽くん、明日空いてる?」
「空いてるけど……土曜日だぞ。何企んでやがる」
「何も企んでないわよ、失礼ね。お礼がしたくて……」
「お礼? 何の?」
「……秘密」
は?訳分からねぇ、怖ぇ、俺何かしたか?
「と、とにかく! 明日空いてるならご飯でもどう? 私の奢りで」
奢りは流石に申し訳ねぇし、好きな女に奢ってもらうのは男としてのプライドが許さねぇ。そう思った俺は考えて、とあることを思いついた。
「……お礼って言うんなら、頼みが1つある」
「何よ?」
「ピアス、取り返してくれ。そしたら飯でもなんでも行ってやる」
俺をお礼をするという立場になって奢ってもらうのは回避できるよな。我ながら名案だ。そう思っていると、嘉納が念を押すように口を開いた。
「それ、本当よね?」
「男に二言はねぇよ」
「……分かったわ、ちょっとだけ待ってて」
そう言って、その場から嘉納がいなくなったと思ったら2分ほどで戻ってきて、手を差し出してきた。俺が不思議に思いながら手を出すと、その上に何かを乗せられた。
「……! ピアス……え、今行ってきたのか!?」
「ええ、そうよ。それを付けずに過ごせば今日は取られる心配は無いわ。ほら、約束は守ったわよ」
ドヤ顔してんの可愛いな……。しかも、こんなに早く取りに行ってくれるとは。俺のが感謝するべきじゃねぇのか? ありがとう、そういうとこが好き。とは言えず思ってることとは全く違うことを口にした。
「はいはい、わぁったよ。行きゃいいんだろ」
「じゃあ、待ち合わせどうしようか」
「時計台前で」
「え? 駅じゃなくて?」
駅だと学校の奴らがいた時、どうすんだ? 土曜の駅前のうちの生徒がうじゃうじゃいるの知らねぇのか? そいつらに何か言われたら弁解大変だろうが。つーか、時計台も割と待ち合わせする奴らが多いってのに、妥協してんだぞ。俺は別にいいけど、嘉納に迷惑かけたくないんだっつの。とは言えないので脅し口調で伝える。
「駅だと来なかったら即帰るが、それでもいいんだな?」
「時計台でお願いします……っ! じゃあまた明日ね!」
焦った顔可愛いな、と思いながら彼女の背中を見送ったところで俺は気づいた。
これ、『デート』では!?
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます