4.休日ばったりでもバチバチ勃発【蒼世】
とある休日。
「お兄! お菓子買ってー!」
「買わねぇよ」
俺は妹とスーパーに買い物に来ていた。
遡ること30分前、部屋でまったりとゲームしていたら、母親からノックもなしに部屋に侵入され、開口一番に告げてきた。
「蒼ちゃん、買い物頼める?」
「はぁ? 絶対嫌だ」
「あら、この間、親の呼び出しくらったのは誰かしらー?」
「うぐっ」
母ちゃんの笑顔が怖すぎる……。そもそも高校生活における母親との約束を破った俺が悪いのだが、何も妹の面倒まで押し付けなくていいだろうが。なーにが、「ママは大事な用があるからあーちゃんのことお願いね」だよ。好きな韓ドラの再放送見るだけだろ。
そう心の中で思いながら、家の近くのスーパーまで来た訳だが……。
「お兄、これもだめ? あ、あっちに試食あるよ! 美味しいかな? お兄、美味しかったら買っちゃおーね! お兄、早く!」
「おい、紅璃、あんま走んな。危ね……ぇ、ぞ…………」
目の前にいる人物と目が合って、俺は固まった。そいつは俺がよく知っているやつだったから。相手も同じように思ったようで、驚いた顔で俺の名前を呟いた。
「し、設楽くん……?」
「か、嘉納…………」
そのまましばらく俺たち二人の時間が止まったまま見つめ合っていると、可愛らしい幼い声が静寂を破った。
「お兄のお友達?」
その声に俺たちははっと我に返って、俺が先に紅璃に返事する。
「友達じゃねぇよ、ただの知り合い」
「知り合いの人に会ったらあいさつしなさいってママが言ってた!……こんにちは! 私、設楽紅璃! お兄がお世話に?なってます!」
「こ、こんにちは……。嘉納柚葉です」
「柚お姉ちゃんって呼んでいい!?」
「ふふっ、いいわよ。よろしくね、紅璃ちゃん」
何普通に挨拶と握手交わして仲良くなってんだお前ら。コミュ力お化けか? てか、紅璃、お前の知り合いじゃねぇだろ、挨拶いらねぇぞ。あと、恥ずかしいからやめろ! 嘉納全部忘れてくんねぇかな!? とは言えず、俺はその場でため息をついて、嘉納に話しかける。
「……お前、こんなとこで何してんだよ」
「買い物の付き添いよ。設楽くんこそ何してるのよ?」
「あ? 見りゃわかるだろ。パシリ兼子守り」
「その言い方どうにかならないの? 普通に妹とおつかいって言えばいいじゃない」
それじゃあださいし、俺のキャラじゃねぇだろ!? 引かれたら嫌だろうが、好きな子にこんな俺見られたくなかった!
心の中でそう思いながらうるせぇと返すと、嘉納はくすっと笑った。
「でもまさかあの設楽くんにこんな可愛い妹さんがいて、『お兄』だとは……」
「おい、馬鹿にしてんだろ、ニヤけた
「馬鹿にしてないわよ、可愛いなって」
「可愛いって言うな、嬉しくねぇわ」
「……可愛い」
「だから言うなっつってんだろ、次言ったら殴るぞ」
「あら、女の子のこと殴る気? ドMヤンキーくんは女の子にも容赦しない冷徹非道野郎なのかしら。最低」
「はっ、最低で結構。つか、これ以上クソ真面目ちゃんに構ってる時間が無駄。じゃあな」
いつもと変わらず口喧嘩してから紅璃に声をかけてその場を立ち去ろうとすると、妹がてててと嘉納のことの所まで行って告げた。
「柚お姉ちゃん柚お姉ちゃん、お耳貸して」
「え? う、うん。何?」
俺には聞こえないようにこそこそと紅璃が嘉納に伝えている。俺の恥ずかしい話してるんじゃねぇだろうな? と心配になっていると、紅璃が言い終わったとほぼ同時に嘉納が大きめの声を出した。
「へっ!? あ、紅璃ちゃん!?」
「えへへ。またね、柚お姉ちゃん!」
そう言って、紅璃は俺の手を掴み、ご機嫌で俺とおつかいに戻った。俺はそれどころじゃなかったけど。
なんだ? 嘉納の奴、急に顔真っ赤になってたぞ。てか、紅璃。またねの約束をすんな、俺のオアシス取る気か? 俺より仲良くなりやがって……くっそぅ。妹が羨ましい……。
その後、買い物を終え家路についてから俺は、妹に嘉納に何を言ったのかを尋ねると「お兄には秘密!」って言われたので、しばらくもやもやが消えなかった。変なこと言ってなきゃいいけど。
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