3.口から毒は吐くが不意打ちは聞いてねぇ【蒼世】
「設楽、お前放課後補習な」
「はぁ!? ふざけんな!」
担任からそう告げられた俺は、反論の答えを叫ぶ。これでも、テストだけは真面目に受けて、成績も上位キープしてるから補習なんて必要ないはず。一応、母親が言う最低限は守っているつもりだ。そう伝えると、先生は呆れた顔をして告げる。
「出席日数が足りない分をテストだけで補い切れる訳がないだろ」
「ちっ」
少し大きめな舌打ちをすると、先生がため息混じりに今日の補習のことについて説明する。
「前回の単元の総合問題全25問のプリントを用意した。それが終わったら採点、7割取れていれば補習クリアだ。いいな?」
「へいへい……」
「今日はやけに素直だな。改心する気に……」
「なってねぇから安心しやがれクソ教師」
くっそぅ、今日は嘉納の言う通りにするなんて軽々しく言ってしまった自分を殴り殺したい。好きな子との約束は守りてぇだろうが。
今日は、嘉納に言われたあの後、授業もサボらずに真面目に受け、ピアスも外し、制服もいつもよりは着崩さないようにした。その上補習まで受けろなんて納得いかねぇ。なんて思っていると先生から驚きの言葉が発される。
「とにかく、補習は絶対だ。それと、今日職員会議があって、終わるまで嘉納が補習の監督をしてくれることになってるからよろしくな」
「………………………………はぁぁぁ!?」
そして、放課後になり、教室は俺と隣のクラスからやってきた俺の宿敵兼想い人との2人だけになった。時計の針のカチコチという音だけが教室に響く。
そう、2人きりの空間。まあ、こうなってしまったのも補習を受けざるを得なくなった俺が悪いし、仕方ないのは分かる。分かってはいるんだが……。
「……おい」
「何よ」
「何で机を俺の方に向けて俺の真ん前に座ってんだよ。他にも座るとこあるだろうが」
「邪魔はしてないじゃない。それに、答えはもらってるから、解いている途中で間違ってたらすぐに言えるでしょ? 文句ある?」
近くて集中できねぇんだよ馬鹿野郎……っ! とは言えずにぶっきらぼうに返す。
「文句しかねぇな。クソ真面目ちゃんの真面目が感染りそうで超嫌だわ」
はいはい、でも……と彼女は続ける。
「ちゃんと、守ってくれてるのね」
「あ? 何を?」
「私が言ったことよ。まさか全部守るなんて思わなかったわ」
「男に二言はねぇからな。今日くらい守ってやるよ」
そう伝えると、嘉納はくすっと笑って俺をじっと見つめてくる。なんだよと尋ねなきゃよかった。
「ピアスなんかしてない設楽くんの方が私は好きよ」
その言葉を聞いて心臓が止まりそうになる。そのすぐ後に、嘉納が落ち着いた声で言葉を続けるまでは俺の思考回路は停止していた。
「あ、別に変な意味ないわよ」
「分かってるわ、クソ真面目」
顔は落ち着いて、いつも通り嫌味を返しているものの、心の中では舞い上がっていた。
好きって言われた好きって言われた好きって言われたああああああああぁぁぁ!
恋愛的な意味で「好き」と思っていなくても、その言葉だけで嬉しくなる。気づけば先生の用意してくれたプリントも終わっていた。
好きな子からの「好き」の言葉の影響力すげぇな。……うん、すっげぇアホな考えしてるわ俺、落ち着け。
一度深呼吸して気持ちを落ち着かせてから、嘉納に終わったプリントを雑に突き出した。
「答え、持ってんなら丸つけしとけよ。帰るわ」
「え、ちょっと、設楽くん!? 7割取れてなかったらどうす……」
「取れてっから。んじゃ」
そう告げて教室を後にし、無表情でいつも絡んできやがるめんどくせぇ野郎どももガン無視して帰宅すると、小学生の妹が出迎えてくれた。
「あ、お兄。おかえりー……って、お顔真っ赤だよ、だーじょぶ?」
「……ん。手洗ってくるわ」
妹の頭を撫でてやり、ささっと洗面所に向かって顔に水をかけて、鏡に映った茹でダコのようになった自分の顔を見て、ため息をつく。
家までもってよかった。こんなみっともねぇ姿、誰にも見せらんねぇわ。
その夜、嘉納に言われた「好き」が離れずにろくに寝れなくて、翌朝、昨日ガン無視した野郎どもに八つ当たりしたのは言うまでもない。
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