2.君のお目付け役って実はすごく役得【柚葉】
「今日も麗しいな、風紀委員長」
「美人で、成績優秀、文武両道とか、ほんと憧れな存在だよねー」
風紀委員長である私は学校ではそういう印象だ。先生たちにも一目置かれていて、現生徒会長と同じくらい頼りにされているほど。むしろ生徒会長の方が頼りないくらいだけどね。
そして何よりも私は先生に大役を任されている。
「嘉納、設楽のことだが……」
「はい、大丈夫です。任せてください。目を光らせておきますから」
「本当に申し訳ないと思っているんだが、君にしか頼めなくてね……」
「気にしないでください、先生。学校の風紀を守るのが私の仕事ですから」
なんていうのは建前。本当の私にはみんなに秘密にしていることがある。それは……。
先生には感謝してもしきれないのよ。設楽くんと話す機会を与えてくれてありがとう、先生! 申し訳ない? 大丈夫です、むしろウェルカムです!
私が学校一の問題児、設楽くんに恋をしているということ。きっかけは、入学式の時に、上履きを忘れて困っていた私に気づいてくれたことだった。欠伸をしながら彼は私に自分の上履きを渡してくれた。
『ほらよ。まあ、サイズは合わねぇだろうけど』
『……え、でも……』
『俺はサボるんで。じゃっ』
設楽くん、そう言って入学式の日から1週間学校に来なかったのよね。懐かしい。
上履きに名前が書いてあったからお礼の手紙添えて下駄箱に突っ込んでおいたけれど、まさかその彼がとんでもない問題児だったとは……。ほんと、あの優しさはどこに行っちゃったんだろう。
そんな誰にも言えない想いを抱えながら私は今日も廊下を走る「ミスター校則違反」に声をかける。
「設楽くん、止まりなさい」
「止まる義理はねぇので止まりませーん」
「はぁ!? 止まりなさいよ! 廊下は走らない、常識でしょう!?」
待って、咄嗟に腕掴んじゃった……っ! ど、どうしようどうしよう! 顔に出たら終わる!
必死に照れとあたふたを顔に出さないように、設楽くんを睨みつけて回避する。ごめん、本当は睨みたくないのよ、許して設楽くん! 心の中で土下座していると、設楽くんが私からそっぽを向いてぼそっと不機嫌そうな声で告げる。
「うるせぇな、キレすぎだろ。離せこら」
「廊下を走らないなら離すわ」
「……あーもうわぁったよ。今日はクソ真面目ちゃんの言う通りにする。だから離せ」
私の方を見ないままそう言うので、彼を信じて手を離す。すると、彼は宣言通り廊下を走ることなく歩き、そのまま屋上に向かう階段に…………。
いや待って、屋上? またサボるつもりじゃ……。私は設楽くんが向かった方向に歩き、階段の前で大きな声で彼の名前を呼んだ。すると、ひょこっと踊り場からとても面倒くさそうな顔を出した。
「んだよ、まだ用か!?」
「授業ちゃんと受けて。あと、ピアス外して。勝手に早退もしないこと。分かったわね?」
「いや待て多くねぇか?」
「あら、『今日はクソ真面目ちゃんの言う通りにする』って言ったのは誰だったかしら?」
「〜〜っ、てめぇ、ふざけんな!!」
ごめんね。設楽くんのことは好きだけど、風紀を乱すような行動は見過ごせません。
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