第四章・淫ら星に願いを〔恒星間宇宙〕

第12話・楡崎 レアの場合①〔レア②は非公開〕

 今夜の亜夢が入った心格の夢は、ちょっと変わっていた。

 丸い窓から見える外の世界は、広大な星雲が広がる宇宙空間だった。

 サファイアのような青い星が浮かんでいる。

 亜夢の体も無重力状態の中で、フワフワと浮かんでいた。

 宇宙船の乗員のような服を着ていて、東京ドームほどの広差がある円形の場所には。

 人間一人分が入る、カプセルが整然と並んでいて。すべてのカプセルが破損していた。

(どんなシュチュエーションだ? 心格はどこに?)

 亜夢が床に着地すると、重力がもどり普通に歩けるようになった。


 破損しているカプセルの中を見て回ると、底に乾いてこびりついた赤黒い液体の残骸があった。

「わからない、このシュチュエーションは、いったいなんなんだ?」

 カプセルを見て回っていた亜夢は、一つだけ無傷で上部のフタが開いているカプセルを発見した。

 カプセルの中には、底に少し埃らしきモノが付着してはいたが他のカプセルのような、液体の残骸は無かった。

(とりあえず、この夢の心格を探してみるか……夢魔が夢の内容に介入して変革できるのは、一部だけだからな)

 カプセル集合部屋を出た、亜夢は探索をはじめる。


 探索を進めていくうちに、ここが移民宇宙船の中で、丸窓から見えたサファイア色の惑星を目指して、長い宇宙航海を続けてきたと判明した。

 船長室にあったボロボロになった航海日誌を読むと、移民船内で内部反乱が発生して。

 その時に、細菌研究室に保管してあった。人間にしか感染しない、ある種のウィルスが流出しまい、移民団の地球人は死滅してしまったらしい。


「船長は電子媒体の記録と平行して、念の為に紙媒体の記録も残したと言うコトか……流出したウィルス名は移民人類は、すでに免疫力を失ってしまった『風邪』? 風邪をひいて全滅? 確かに風邪は万病の元とは言うけれど」


 日誌には、移民人類とは別に生体3Dプリンターで作り出した。性欲処理用の疑似人間──セクサロイドもいると、書いてあった。

「あの最初に見た円形部屋にあったのが、セクサロイドカプセルだったのか」


 亜夢は、日誌に貼りつけてあった船内図を頼りに船内探索を続ける。

 移民の居住エリアがあり、貯蓄水の循環システムエリアでは下水を浄化して飲料水に再利用していた。

 食糧生エリアでは人工タンパク質の部位が浮かぶ、緑色をした培養液が詰まった円筒カプセルが並んだ部屋があった。

 カプセルの数個は、人的に割られて中に浮かんでいた肉が奪われた痕跡がある。


(誰かが食糧の調達をしている? その人物が、このシュチュエーションの心格?)

 亜夢は、食用植物が異常繁殖してジャングルのようになったエリアに入った。

 頭上から下がっている巨大な枝豆のサヤ。

 大木のような、太さの白菜。ネギの林に、ジャガイモとニンジンの大樹。

 ニンニクと玉ネギの群生地からは玉ネギ臭と混じりあった、強烈なニンニク臭が漂ってくる。

 

「食糧の問題を解決するために、植物を巨大化させたのか」

 亜夢は、野菜のジャングルの彼方に焚き火らしい煙を見つけ、その場所に向かった。


 亜夢が見つけたのは、巨大なキャベツを、くり抜いて作ったキャベツの家だった。

 家の前には、焚き火の炎が揺れていた。

 家の中を覗くと、原始的だったが、明らかな生活感があった。

「誰かが住んでいる?」

 亜夢がそう呟いた時──背後でドサッと何かが落ちる音が聞こえ、振り返った亜夢は、そこに原始人のような毛皮の衣服を身につけた高校生くらいの年齢の少年が、驚いた顔で立っているのを見た。

 少年の髪色は、青と緑の中間色をしている。


 金属片を植物の繊維で、棒に縛りつけた斧のような道具を持っている少年の目に涙が溢れる。

「人間? あぁ、初めて人間に出逢えた!」

 少年は床に落とした、骨付き人工肉の塊に金属の斧を突き刺すと。

 亜夢に駆け寄り、歓喜の表情で抱きつく。

「やっと逢えた! これでボク本来のセクサロイドの役目が果たせる! 抱いてください! 性欲処理にボクの体を使って交尾してください! はぁはぁ、早く早く」


 どんどん、着ているモノを脱いで裸になろうとする心格の少年を、亜夢は制する。

「落ち着け! とりあえず深呼吸をしてから服を着ろ!」

 服を着て落ち着いた少年は『楡崎 レア』と名乗り、移民団の性処理目的に生体3Dプリンターで作られた【人工生命体のセクサロイド】だと亜夢に告げた。


「ボクが目覚めた時には誰もいませんでした……でも、自分の成すべきコトは睡眠学習で刷り込まれて、わかっています。ずっと一人で生きてきました」


 亜夢は、他の心格……真魚のコトを知っているかレアに訊ねる。

 レアは、当たり前のように答えた。


「知っていますよ、自分が紫炎って人の体と共有している、集合心格の一部と言うコトは……でも、心格は自分の心格エリアから、別の心格エリアには基本移動はできないんですよね……それが出来たら、紫炎の心のバランスがメチャクチャになってしまいますから」


 集合心格は、マンションの個室にそれぞれが居住しているようなモノだった。個室を自由に往来したら、それぞれの住人の生活がメチャクチャになるのと同じだった。

(紫炎の肉体と心には、シェアハウス的な心格の融合はムリかな?)


 レアが言った。

「さあ、早くボクの体で交尾してください」

 亜夢は、とりあえず。レアが居るエリアの天井を満天の星が煌めく夜に変えて。

 キャベツの家でレアが落ち着く次の朝まで何もしないで、一緒に添い寝をするコトに決めた。

(レアの心を、もっと知らないと……男同士での愛し合いはできないな)

 亜夢とレアは、キャベツの葉を敷いた家の中でいろいろと語った。

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