第三章・男の裸心にダンクシュート〔学園〕
第9話・楡崎 射手〔いて〕の場合①〔射手②は非公開〕
ジルドの元にもどった亜夢は、ジルドに
「やはり、オレの方が女性夢魔のサキュバスに変身して、相手をするべきでしょうか?」
「それは、ムリだ……最初からおまえは、男専用の夢魔で作られた……女体に変身はできない」
「ではどうすれば?」
「それは自分で考えろ、男性愛を拒絶する男を堕としてこそ。一人前の男性専用のインキュバスだ」
「ちなみに、男と女、どちらの性別の方が快感が強いんですか?」
「女に変身して人間の男と長年、寄り添った悪魔の話しだと割合的には『女・九割の快楽』『男・一割の快楽』らしいな」
「そんなに違うんですか?」
「男は何回も射精絶頂はできないからな……でも夢魔の、おまえには相手の絶頂回数や自分自身の絶頂回数を淫夢の中で自由にコントロールできる……好きなだけ、相手をイカして自分もイケ」
そう言ってジルドは、意味ありに微笑んだ。
亜夢は、紫炎の夢の中に入った。最初の場面は、どこかの体育館だった。
(体育館? スポーツ系の心格なのか?)
亜夢自身も、バスケットのユニフォームを着ている。
(これから、どうすれば?)
亜夢が、思案しているとバスケットボールが一個、バウンドして亜夢の方に飛んできた。
バスケットボールを受け止めた亜夢に、ボールを投げてきた男子高校生らしい心格が言った。
「なに、惚けているんだ。県大会の予選試合も近いから個別練習をはじめるぞ」
亜夢と同じユニフォームを着た心格は『楡崎
射手が言った。
「ここが、夢の中のインナースペースのひとつだってコトは承知している……おまえが夢魔だってコトもな」
夢の中で、バスケットの練習がはじまった。
射手はドリブルをしながら、亜夢に言った。
「オレからボールを奪ってみろ」
亜夢がボールを奪おうとすると射手は、片足を後ろに引いてターンする、バックロールで亜夢をかわして抜き。
そのまま、ドリブルで走って、シュートを決めた。
射手が言った。
「ディフェンスが、隙だらけだ……相手の動きをよく見ろ」
亜夢がドリブルから、フットスルーしたボールも、射手は簡単に奪ってジャンピングシュートに持ち込む。
一対一の個別練習を続けながら、射手が言った。
「オレは男同士の恋愛は嫌いだ、男同士の愛は認めない」
射手は紫炎の肉体と共存しながら『男同士の愛し合いに否定的』な心格だった。
練習で気持ちがいい汗を流してスポーツタオルで汗を拭きながら、並んで休憩している亜夢に射手は、自分が飲んでいたスポーツドリンクを無言で差し出す。
「ほらっ、飲め」
射手は男同士で間接キスをするコトには、気にしないようだ。
スポーツドリンクを飲みながら、亜夢が射手に質問する。
「そんなに、男同士で抱き合うコトが嫌いなのか?」
「あぁ……嫌いだ」
そう言って射手は沈黙した。
体育館内のシャワールームで、仕切られた個室で射手と並んでシャワーを浴びている亜夢は、射手の個室を覗いて言った。
「キレイな体しているね、そんな整った体で男同士の恋愛を否定するなんて、もったいないよ」
「体は関係ない」
そう言って、射手は亜夢に背を向けてシャワーで汗を流した。
亜夢は、射手の背中を流れ落ちていく、温水を眺めながら肩をすくめた。
シャワールームを出て、スポーツバックに汗で湿ったユニフォームを詰め込み、制服に着替えた亜夢が体育館外に出ると。
一人の小柄で気弱そうな、心格の男子生徒が亜夢を待っていて話しかけてきた。
「あのぅ、夢魔の方ですよね。そのコウモリの翼と尻尾を見ればわかります」
亜夢は頭の両側からも、小さなコウモリの翼をヒョコッと出して、小柄な心格男子に見せる。
「君は?」
「ボク、楡崎
亜夢は真魚と一緒に公園にあった、ホットドッグ屋で買ったホットドッグの、太く弾力性があるソーセージにかぶりつく、夢の世界のホットドッグ屋で売っているホットドッグに、かかっているのは赤いケチャップではなく。
白いホワイトソースだった。
ホワイトソースまみれのソーセージに、かぶりつきながら亜夢は真魚に質問する。
「相談したいコトって何?」
真魚は口の周囲に付着して唇の端から少し垂れたホワイトソースを、テッシュで拭きながら言った。
「射手のコトどう思いますか?」
「男好きが基本嗜好の、紫炎の肉体と共存している、心格にしては変わっているね」
「射手も、少し前まではあんなんじゃなかったんです……普通に男が好きだったんです。それが、あの日」
真魚の話しだと、射手には片想いの男性先輩心格がいた。
ある日、射手は校舎の裏で好意を抱いている先輩が、知らない男の心格と抱き合ってキスをしている場面に遭遇した。
その日から、射手は男同士の愛し合いに否定的な心格に変わった。
「射手は一途過ぎたんです……お願いです、射手の心を助けてあげてください。あんな、ムリをして自分を偽っている射手を見ているのは辛くて」
「もしかして、真魚は射手のコトを」
「好きです」
一つの肉体を共有している心格は基本、自由恋愛のフリーセックスだった。
亜夢は試しに、真魚に訊ねてみる。
「他にも変わった心格を知っていたら、教えて欲しいんだけれど……射手を救うヒントになるかも知れないから」
「ボクが知る限りは、スーツ姿の
さらに真魚の話しでは、変わったところで、異世界の勇者や魔王とか。
戦国時代の怪しい忍術を使う忍者とか。
人間ではない、エッチ専用の男性セクサロイドの心格もいるらしい。
亜夢が言った。
「一か八かの賭けで、射手の心を救うコトができるかも知れない……失敗すれば、闇堕ちして二度と表には現れなくなるけれど」
夢の次の日──体育館での練習が終わった、亜夢と射手は並んだ個室でシャワーを浴びていた。
亜夢が、裸の射手を見て言った。
「本当にキレイな体をしているよな……そっちの個室に行ってもいいか?」
亜夢は射手を救うために、自分の夢魔としての直感を信じた。
射手は……責めのタチか、受けのネコか? それともリバースのどれかを……そして、亜夢が導き出した心を閉ざした射手の属性は。
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