#4

 駿佑が連れてこられたのは、神楽坂から外濠を挟んで向かいの九段にある焼肉店だった。

 早稲田通りから裏路地を一本入ったところにあり、隠れ家的な暗めで落ち着いたその外観から一目で高級店と分かる店だった。店内の席は全て個室で、二人はその中の一室に通された。

 「オレはカシオレにするけど、お前チューハイでいいの?」

 「うん」

 出されたおしぼりで手を拭きながら、悠佑はメニューも見ずに注文する。落ち着かない様子で駿佑が個室の中を見回していると、頼んだドリンクが運ばれてきた。

 「それじゃ、乾杯!」

 「乾杯」

 グラス同士がぶつかって、甲高い音を立てる。

 「こうして会うのも二年ぶりかぁ…。お互いに家出てからほとんど会ってなかったもんな。その後どうよ?」

 「別に何とも。にーちゃんは?」

 「まぁぼちぼちってとこかな」

 悠佑が小さなため息をつく。

 「新卒でいきなり営業に飛ばされて苦労してるよ」

 「根は陰キャだもんね」

 「これでもかなり改善した方だろ。昇進話が出るぐらいには頑張ってるんだぞ」

 「さすが銀行マンですね、お兄様」

 得意げに胸を張る悠佑に、皮肉っぽく駿佑が言う。

 「冷たい声でそういうこと言うのはやめろよー。てかさ、よくよく考えたらお前と同期なんだよな」

 この二人は二歳差なのだが、それぞれ大学と専門学校に進学して同じ年に就職している。

 「それが?」

 「何か弟と同期ってムカつくなー」

 「はぁ?」

 相変わらず思ったことを考えなしにそのまま言う人間だ。これで全く悪意がないのだからかえって質が悪い。

 「何か今日のお前冷たくない?」

 「別に」

 どこまでも呑気で調子のいい兄に、駿佑は半ば辟易していた。

 「まぁ、ほら、今日は好きなもの頼め」

 悠佑から手渡されたメニューにあるのは、ほとんど駿佑が聞いたこともないような名前の肉ばかりだ。おまけにどれも目が飛び出るぐらい高い。

 「こういう高い店来たことないし、よく分かんないからにーちゃん適当に頼んで」

 「おう」

 悠佑は暗号のような名前の肉をいくつか注文し、ほどなくしてテーブルの上にはいくつかの皿が並んだ。その奇抜な名前に反し、見た目はどれもごくありきたりな牛肉だ。運ばれてきた肉を、悠佑が手際よく七輪の上で焼いていく。肉の焼ける音に続いて、食欲をそそる香ばしい匂いが部屋いっぱいに広がる。

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