第2話
この場所のことを聞いてみると、パラディソスという名で、昔はたくさんの妖精たちが花々とともに戯れ、人々もいたが、今はこの場所自体が忘れ去られて、一つの都市伝説となっているらしい。
「アナはどうしてここにいたんですか?」
「調査のためよ。それと……敬語は外して」
「え?」
昔のことを思い出すからと彼女は答えた。敬語は嫌な思い出を呼び覚ますものなのか。敢えてその思い出について聞きはしなかった。いや、聞けなかった。あまりにもつらそうな顔をしていたから。気を取り直して他のことを聞いてみる。
「調査って?」
「廃墟兵の調査よ。ほら、あそこに沈んでいる黒い頭蓋骨みたいな物体があるでしょ? あれが廃墟兵よ」
確かに黒い化石のような物体がちらほらと砂の上にあるのがわかる。山のように大きい頭部から推測するに人間より大きなものらしい。
「どうして調査してるの? 君以外に調査する人はいないの?」
「廃墟兵たちが生き返っていないか確かめるためよ。そして私以外にも調査する者はいるわ。けれどめったに会わない」
「それが生き返ったらどうなるの?」
うーん……と少し考えたあと彼女は、この地が滅びるの。と真剣な顔をして言った。滅びるってそんな、大げさな。どんな巨大生物が生き返ったとしても多少のバランスは崩れるだろうが地が滅びるというのは聞いたことがない。冗談半分で聞き流すと彼女は少し怒ってしまったようだ。
「あのね、馬鹿にしないで」
「え? してないよ」
「いや、してるわ! だって信じてないって顔を浮かべてるもの」
「まぁ、そりゃ……」
笑い事じゃないのよ! と語尾を強めて言われた。怒られても僕にはわからない。この世界の住人ではないのだから。彼女は、はぁ……とため息をついて廃墟兵について仕方なくといった様子で僕に教えてくれた。
まとめてみるとこんな感じだろうか。
・百年前まで存在していた巨大生物
・大きな家や城を守る衛兵として使用された
・力の暴発で地が滅びる可能性が高い
「さっき言ってたけど……」
「なに?」
「どうして他の人と会わないの?」
「一人で調査しているからよ」
「ふーん……」
会話が途切れてしまった。再び重苦しい溺れるような感覚に襲われる。なにか話しかけなければと焦って話題を振ってみた。
「君は何歳なの?」
「私? 私は……ってレディーに年齢を聞くのはタブーよ」
「そうかそうか、ふふっ」
楽しくて仕方ないといったふうに笑い声が漏れてしまった。初めて会話という会話ができたから嬉しかったのかもしれない。もしくは人とのつながりができたからかもしれない。
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