第2話 スタミナたっぷりニンニクぐちゃ玉納豆

 今回は、運良く給料の一週間前とあって、古都美の誘いを無事すんなりと断り、夕食の納豆を頬ばる時を想像しながら、弾んだ足取りで家路に着いた典江。


「今日は、スタミナたっぷりのアレの気分~!」


 帰宅するなり、鼻歌を歌いながら、スライスチーズを炊飯器の蓋の上に乗せた。


 炊飯器の中には、朝に炊いたご飯の残りが保温されている。

 その蓋の上にチーズをしばらく置く事で、冷蔵庫で硬くなっていたスライスチーズが程良い温度に温まり、ご飯を冷まさないようになる。


 典江が冷蔵庫の横の棚にギッシリと並べているスライスタイプのチーズには、とろけるチーズは一つも無く、普通のとろけないタイプのスライスチーズのみだった。


 というのも、粗食ながら典江は、素材に厳しく、とろけるチーズには、そうさせる為の添加物が多く含まれ、風味的にも劣っているように思えていたのだ。

 健康の為にも安全の為にも美味しさの為にも、とろけるチーズという選択肢は存在していなかった。

 もちろん、細切りタイプのピザ用チーズに関しては、生でもサラダ用のトッピングとして食せるものを選ぶようにしていた。


 入浴を済ませている間に、炊飯器の蓋の上のチーズが良い感じに温まっているのを確認し、食欲をそそられる典江。


 夕食の時には、動画が典江の大事なお供。

 毎度、見る動画を〇マゾン〇ライムから選んでいる。

 夕食時に見る動画は、血生臭そうなホラーやサスペンスや戦争ものを避け、食事が美味しく進むような恋愛ものやミュージカルものなどが多い。

 今回は、恋愛ものの洋画を選んでスタンバイしておいてから、手抜き料理に取り掛かった。


 まずは、ベランダのプランターからパクチーを取って来て、水洗いし、ペーパータオルで水気を取った。


 フライパンに卵一個と、桃〇の『きざみニンニク』の瓶から適量を入れて、ヒマラヤブラック岩塩と醤油で味付けし、典江が「ニンニクぐちゃ玉」と呼んでいる半生のスクランブルエッグ状の物を作り、火を止めた。


 丼ぶりご飯に温まったスライスチーズを乗せ、半円状に味付けしたネギ入りの納豆をかけ、もう半円部分には「ニンニクぐちゃ玉」をかける。

 先ほど収穫したパクチーをトッピングして完成した時点で、スマホが鳴った。


 典江の恋人の保谷ほたにはじめからだった。


「あっ、典江、いたんだ。今、近くにいるんだけど、コンビニで夕食買うから、一緒に食べないか?」


 この美味しそうなアツアツの「スタミナたっぷりニンニクぐちゃ玉納豆」ご飯を目の前にしているのに、これからコンビニで買い物してやって来る保谷を待つ事など出来ようはずがなかった典江。


「ゴメン、ちょっと、今日は体調が悪い! また今度にして!」


「え~っ!」


 保谷の期待が外れた驚きの声が聴こえて来たが、目の前のご飯を冷ますわけにはいかず、無情にも電話を切った典江。


「あ~、なんて美味しい! 和洋折衷で食べても、こんなに美味し過ぎる~! 納豆は神だ~! こんなに沢山の種類の納豆が存在している日本に生まれて、本当にシアワセ~!」


 洋画を見ながら、至福の納豆星人時間を満喫した典江。

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