納豆星人の至福のヒトトキ

ゆりえる

第1話 何か1つ一生食べ続けるとしたら......

 毎朝起きると、町下まちした典江のりえはまず、冷蔵庫をチェックするのが日課。

 そこには、所狭しと並べられた納豆のパック、そしてトッピング用の具材がひしめき合っている。


「よ~しっ! 今日も、健やかな1日となりそう!」


 冷蔵庫の中身を確認し、安堵する典江。


「今朝は、卵かけ納豆の気分!」


 ネギを入れてかき混ぜた納豆を生卵を入れた小皿に移し、昆布出汁醤油で味付けし、細かな泡が沢山出るまでグルグル混ぜ、炊き立てのアツアツご飯にかけて頂く。


「ああ、なんて美味しいのだろ~っっ! これで、今日の仕事も頑張れる!」


 典江は物心ついた頃から、大の納豆好き。

 一日三食を納豆で、それが毎日続いても、全く苦には思わない。

 

 もちろん、無人島に何か1つだけ持って行ける食材が有るとしたら、迷わず納豆を選ぶつもりでいる。


 昼食時には、会社で弁当売りが来る。

 典江も他の職員達と同様に、それを買って食べているが、弁当の色々なおかずを食べながらも、頭の中は、その日の夕食の納豆の食べ方を考えて、一人幸せな気持ちになっているのが常だった。


「ねえ、典江、今日の仕事帰りに、飲みに行かない?」


 職場の同期、山根やまね古都美ことみが誘って来た。

 彼女は酒豪で、付き合い程度にしかお酒をたしなまない典江にとって、彼女と飲みに行って割り勘になるのは、分が悪く思えていた。

 飲み会代を納豆代に換算すると、いくつ買えるか考えると、同行するのを躊躇わずにいられない。


「いや~、それが給料前だから、正直キツイんだよね~!」


 日々、納豆ライフを実践し、粗食気味の典江は、給料前でも、それほど財布事情は悪くは無いのだが、そんな事を古都美に暴露しては、当然、飲み会行きとなる。

 それで、給料日を10日くらい前に控えた時からは、古都美に対し、その言い訳を多用している。


 問題は、給料が入った直後。

 さすがにその時には「給料前だから無理」などという言い訳は通用しない。

 沢山のパックになった納豆が、典江の元を離れて行ってしまうような状況を頭の中で想像しながら、泣く泣く飲み会に同行する事になるのだった。

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