第6話 客の嵐
カランカラン……。
上品なおばあちゃん退店後の事。俺は香良洲と話す――という時間は全く持てなかった。上品なおばあちゃんが居なくなってからホント数分という時間でお店のドアがまた開いたのだった。
普段なら片付けをして――しばらくぼーっと。誰も来ない時間があるのだが。今日は違った。まだ片付けをしていたら――次のお客さんがとなったのだった。
「あっ、いらっしゃいませ」
マジか。またお客さん?と俺が思いつつ入り口の方を見ると。
カートを引いたおばあちゃんが入ってくるところで、ワタワタと香良洲が入口へと向かい。ドアを持っていた。
「ありがとね」
「いえいえ、いらっしゃいませ」
香良洲がカートを引いたおばあちゃんとともに席へとやって来る。
「いらっしゃいませ」
片付けを急いでしつつ俺も声をかける。
「今日は何をもらおうかね」
「なんでもありますよ」
なんか前も来たような感じで話しているが。多分初めて、というか初めての人である。でもこういうことはよくあるので、特に気にしない。
香良洲は俺がカートを引いたおばあちゃんと話している間に、おしぼりの水を準備していた。って、覚える速い。うん。今の子早いよ。って――そんなに年離れてなかったか。
「そうだね。鯵の干物でももらおうかね」
「わかりました。鯵の干物ですね」
干物。干物――先ほどまでは冷蔵庫にそんなものはなかった。でも――注文が入れば……。
「あるんだよな」
うん。立派な鯵の干物がありましたとさ。そこから俺は調理に入る。そしてその間は香良洲がおばあちゃんの相手をしていたのだが――。
カランカラン……。
なんだと?だった。今はまだお客さんがいるのに他のお客さん?と俺が思いつつちらりと入り口の方を見ると――。
スーツを着たおじいちゃんが立っていた。ピシッとネクタイをしてシワ一つないスーツを着ている。うん。かっこいいわー。って、そうじゃなくて。
「「いらっしゃいませ」」
俺が声を出すと香良洲とかぶった。ちょっと2人とも顔を見合わせて、くすっとしてからそれぞれの仕事に――って、同時に人が来るとか初めてなんですけど、まあ親の時は2人居たけどさ。多分このカートを引いたおばあちゃんとスーツを着たおじいちゃん関係ないよね?うん。なんか今日はおかしなことが多いぞ?
「うな重をいただこう」
「あっ。はい。かしこまりました」
俺がちょっといろいろ思っている間にスーツを着たおじいちゃんはしっかりとした足取りで席につき。注文をしてきた。って鰻も出て――来てるわ。うん。ちゃんとあった。大丈夫かな?俺……でもやるしかない。うん。やろう。
そこから俺は鯵の干物を焼きつつ鰻も準備して――出来るまでは香良洲がお客さんの話し相手を――という感じになり。
「はい。鯵の干物完成。香良洲頼む」
「あっ、はーい」
出来たら香良洲に運ぶのは任せた。それから俺はスーツを着たおじいちゃん注文のうな重を――って、めっちゃ美味しそうに出来てしまった。うん。良い香り。
「——美味しそう」
ちらりと覗いてきた香良洲もそんなことを言っていた。
「お待たせしました。うな重です」
「うむ」
よし。2品完成。などと思っていると。カートを引いたおばあちゃん。食べるの早かった。好物なのだろうか?気が付いたら骨だけになっていた。うん。めっちゃ綺麗に食べてくれたのだった。
「おいしかったよ」
「あっ。ありがとうございます。足元お気をつけてください」
「ありがとね」
そしてカートを引いたおばあちゃんが立ち上がると香良洲が手伝いに――すると。
カランカラン……。
またドアの開く音がした。まだカートを引いたおばあちゃんはドアのところまでたどり着いてない。つまり――またお客さんが入って来たのだった。今度はエプロン姿のおばあちゃんで――なんか……えっと、野菜持ってるんですけど!?えっ?ということがあった。エプロン姿のおばあちゃんは畑で取れた野菜で野菜炒めを――とのご注文。いやいやまさかの食材持ってくるパターンとか――ってもう今日はなんでもありの日なのだろうか?と思っていると――。
「美味かった」
いつの間にかスーツを着たおじいちゃん。うな重を米粒1つ残さず完食して立ち上がるところだった。
「あっ。ありがとうございます」
俺が声をかけるとスーツを着たおじいちゃん入り口に向かいつつ手を振って来た。うん。後ろ姿なのだが――このスーツを着たおじいちゃんめっちゃかっこいいな。と、いつもならいろいろ余韻というのだろうか。片付けをしながらそんなことを思えるのだが――今日はそれどころではなかった。まだ作るものがある。野菜持ってくるパターンというのか。食材を自分で持ってくるパターンのお客さんが既に席に座っているのでね。
カートを引いたおばあちゃんをドアのところまで付き添った香良洲はカートを引いたおばあちゃん。スーツを着たおじいちゃんを見送ってから。店内へと戻り。片付けを――って、なかなか。ってか。めっちゃハードな状態となりつつあった。
「お客さんたくさん来るんですね」
綺麗に空になった食器を持ってきた香良洲が野菜炒めを作っている俺に話しかけてきた。
「これ異常」
「いじょう?」
「異常。異常気象の異常。こんなこと今までなかったぞ」
「えっ?そうなんですか?」
「うん。1人ずつとかだったんだが――」
そんなことを香良洲と話していると――まただった。
カランカラン……。
「嘘だろ」
「あっ。いらっしゃいませ」
流しのところに食器を置くと香良洲がトタトタとお出迎えに。入り口のところには――杖をついたおばあちゃんが立っていた。そして歩きながらこちらへと向かって来て――。
「煎茶をもらえるかね」
はい。また注文が入ったのだった。忙しすぎるだろ。どうなったるんだよ。などと思いながら調理をしつつ俺が棚の確認をすると――うん。お茶っ葉がちゃんと置かれていた。
「——万能すぎるだろ。って、香良洲」
「はい?」
「お茶頼む」
「えっ!?」
「ちょっとこっち手が離せない」
「えぇ。私なんかがいいんですか?」
「問題ないかと」
「いやいや――」
「あらあら美人さんが淹れてくれるのかい?」
俺と香良洲が話しているとニコニコと杖をついたおばあちゃんが話しかけてきたので――。
「香良洲。ファイト」
「あわわわっ」
杖をついたおばあちゃんの接客、調理は香良洲となった。うん。問題はないだろう。ここは俺の店。なんかいろいろ言われることがあるかもしれないが――外の世界とは切れているはずだしな。
って、エプロン姿のおばあちゃんが持って来てくれた野菜。種類が多くてね。俺結構大変だった。ホント今収穫してきたような野菜で新鮮なのだが――うん。洗ったり切ったりそして炒める。地味に大変だった。などと思っていたら――
カランカラン……。
「——マジかよ」
再度ドアの開く音がして、俺が多すぎるだろ――とつぶやいていると香良洲が先に煎茶を入れながら声を出していたのでそれに続く形で俺も声を出したのだった。
「い、いらっしゃいませ」
「いらっしゃいませ。空いている席にどうぞ」
うん。空いている席にどうぞとか初めて言ったよ。今日のお店。なんかおかしい。これ――終わりはあるのだろうか?調理をしながらちょっと……嫌な予感がしている俺だった。
ちなみに香良洲。なかなか上手に煎茶を淹れれたらしく杖をついたおばあちゃんに喜ばれていて、ホットした表情をしていた。うんうん。よくやったである。
「野菜炒めお待たせしました」
――いつからこのお店こんなに繁盛しだしたんだろうか……もう来るなよ。って言う暇すらないよ。
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