第4話 珍しい客

それは腰の曲がったおじいさんが帰ってからしばらくしてだった。

俺がのんびりといつものように店内の掃除をしていると――いや、暇なときはホント暇でね。誰も来ないから自然と掃除になるんだよ。だからそれもあってか。お店の中結構綺麗になったと思うぞ?あっ、お店の外もな。って、俺がそんなことをしているっとまたお客さんが彷徨い飯にやって来たのだった。


カランカラン……。


ふと、今日はお客が多いのかな?などと思いつつ玄関の方を振り返りながら……いつものように挨拶――。


「いらっ――しゃい……」


は、最後まで言えなかった。ちょっと驚きで詰まってしまったのだった。


――こんな客もこの店に来るのか。少し前に来るなよ。って、俺は思ったばかりなのに……あっ、俺が思ったからダメだったかと俺は思いつつ。再度入り口の方を見ると少し暗めのベージュ色の髪を揺らした――同年代くらいの女性が立っていた。


「ここは……何?」


俺と目が合うと女性はキョロキョロと周りを見渡していたので――。


「—―飲食店ですよ。一応」


俺が事実を伝える。あってるよな?飲食店だよな?俺が今居るところは――飲食店だ。間違いない。


「飲食店……には見えないけど?いや――飲食店かな?」


戸惑う女性を見つつ。まあ、ぱっと見は飲食店じゃないか。机と椅子しかないというか。殺風景だからな。綺麗にしたとはいえ、お店っぽくしたではなく。本当に綺麗にしただけだ。綺麗にしているだけだからな。ってか掃除より先にメニューを――かもしれないが。ここはメニューがない。って店だからな。などと俺は思いつつ。なるべくいつものように……いつものように――いや、同年代が来るとか聞いてないし。って――来るのかよ。いつも高齢の人がほとんどだったから。まあたまに60前くらいの人もいた気がするが――今って高齢者って何歳から言うの?もしかして75歳以上とかになっていたりする?だとすると――60くらいに見えた人はまだバリバリ現役世代?えっ――ってそんなことを考えるのではなく。

現在入り口で戸惑っている女性をどうするかだよな。まあでもここにたどり着いたということは――なので。


「えっと――このお店ではご希望の料理をなんでもお作りしますよ」

「……希望の料理。何でも?」

「何でもです」

「—―」


俺が言うと女性はそれからしばらく、無言だった。お店を見つつ考えている様子だった。まだ席にも座ってない。これどうなるんだろうか――。

まあ突然来たとかだと。なんだここ?になのだろうと思うが……でもまあ確かに今までも席に座ってからもしばらく考えていた人もいたので――それが立っているだけになっただけ。だから俺は今回のお客さんに対してもその時と同じようにそっと見守るだけだ。


ちなみにちょっと気になることがあった。

女性が考えている間。俺は先に冷蔵庫とかの中身を確認したのだが――今回は材料が届いてないことだ。冷蔵庫の後棚も見てみたが……先ほどのあまりしかまだない。米と味噌。干し芋は――空袋だけだった。って米と味噌しかないな。いや、食材が残ることはよくあってだな。これは俺の食事となるのがいつもの事だ。

だから――材料が少し残っていることは多々あるのだが――新しい材料が追加されないというのは――何故だろうか?ちょっと俺が引っかかっていると女性が席に座った。


「じゃあ――えっと……塩むすびをお願いできますか?」


女性は俺の方を見てそう言った。注文はシンプルだった。


「—―はい。わかりました」


そして注文を聞いてから「なるほど。米は先ほどの残りがあったから新しく追加されなかったのか。もしかして今までは連続でお客さんが来ても同じものを頼むことがなくてたまたま気にならなかっただけか。この不思議な材料登場の仕掛けも残っている者で作れるならわざわざ新しいものは出さないという事らしい」と、俺は勝手に納得。解釈をした。そしてまたご飯の準備を始めた。


それからしばらく女性はずっと俺を見ていた。会話が無かったのでちょっと……だったが。まあこれも今までにあったこと。問題ない。問題ない。同年代に見られるのは―なんか。だったが。でも普通に俺は注文された料理を作るだけだ。会話がない。ということもそこそこあるんでね。先ほどみたいにお客さんがずっと話してくれるパターンの後だとかなり静かに感じるが――まあ修行と思っておこう。ってか同年代の話題とか俺知らないから話しかけることがないし。お米に関して話す――って言ってもなんかすぐ終わりそうだからな。


それからしばらくすると、今度はご飯のいい香りが店内に漂う。先ほどとはまた違う香りだ。ご飯だけのいい香りが店内に広がる。

ご飯が炊けると俺はすぐに塩むすびを1つ作り。お皿に置いて女性の前へと出した。我ながら綺麗な三角形のおにぎりが完成したのだった。本当は海苔があった方がいい気がしたが――探しても海苔が無くてね。こういう時に困るんだよ。こっちが欲しいと思ったものは出てこないんでね。ちょっと飾りに――とか思った時も出てこないしさ。今みたいにおにぎりだけだと手で持って食べる人もいるだろうから海苔が欲しいのだが――ない。そのため俺は一応食べるために箸も出しておいた。


「お待たせしました」

「—―綺麗なおむすび。私が作ると不格好になるんだよね」


女性はそう言いながら――ゆっくり手を動かした。箸で一口分おにぎりを取り……食べた。

お上品というのか。やっぱりおにぎりって手で食べる方がいいのか?うーん。そういうのは俺知らんが……でもまあ彼女が注文したのはご飯。茶碗に盛った白米ではなくおにぎりって言ったからな。食べ方は自由だろ。って……海苔あった方がやっぱりよかったか?なんで無かったんだよ。もしかして……海苔なしは、実は彼女の希望だったりする?うーん。ちょっと分からないことが今回は多いなだった。


それからしばらくはまた静寂が訪れた。ゆっくり彼女はおにぎりを食べていく。俺は見ているわけにも――なのでいつものように片付けをしていた。

それからさらに少しして声を出したのは女性の方だった。


「—―美味しかった。けど……何か違う?」

「……えっ?」


……おっとっとである。これは……完全にはじめてのパターンだった。


女性は塩むすびを食べ終えてはいるが――今までのお客さんとは違うことを言った。いや、まあ人それぞれだからそういう反応もあるのが普通だと思うがね。と、思いつつも何かミスったかな?ご飯が柔らかすぎた?いや硬すぎた?ご飯も人の好みがあるからな。だから基本普通。特に何か言われない限り普通の硬さになるようにするのだが――いや、塩加減が薄い。濃かった?などなどと俺が思っていると。


「あっ、いや、その美味しかったんです。とっても。だけど――何か違う気がふとして――あっ、違います違います。本当に美味しかったんですよ。はい。でも――」


俺が多分変な顔をしていたからだろう。女性は慌ててそんなことを言いながら――。


「あっ。そうだ。えっと、俺いくらですか?代金」

「—―えっ」

「うん?」


おっと、さらにレアパターン。ってか初パターンだ。代金を聞いてくる人は初めてだよ。このお店をしていてお金を払おうとする人を俺は初めて見たのだった。

すると、女性が今度はオロオロ?というのだろうか?キョロキョロ?しだしたのだった。


「あれ?財布――あれ?私――カバンどうしたっけ?」


多分先ほどは今まで言われたことないことを言われた俺が。何をミスった?という感じで変な顔をしていたと思うが。今度は俺ではなく。女性の方の表情が――だった。ヤバイという表情になっていたな。

ってか、ずっと言っていると思うがこの店――いろいろおかしいからね。代金は不要ってことで俺は女性に声をかけた。


「——大丈夫ですよ。ここ無料ですから。お金取ってませんから」

「えっ。ダメですよ。そんなの」

「—―えっ?」

「いや。えっと――財布。カバンなんで持ってないんだろう?確か――って、それは後で、えっと。そうだ。お手伝いします。はい。塩むすび代分働きます」

「……えっ?」


俺……「えっ?」しか言ってないかもしれない。いやこんなお客初めてで――ね。俺はどのように接したらいいのだろうか――と固まっていたのだった。代金を不要と言ったら。ダメですと言われて――さらに手伝いをすると言い出す女性のお客。マジで何が起こっているんだ?普通は――食べて――さようならだったのに――ってもしかして俺が女性が希望する料理をっ作れなくて――何かおかしなことが起こった?えっ?もしかして今までは奇跡的に毎回上手にいっていたから起こらなかったパターンなのか?

いやいやマジで誰かヘルプである。


だってよ。この店は最期の――なのだから。帰らないというパターンはどうすればいいんだよ。と思っている俺だった。

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