グルメ小説コンテスト用 第8話 これが始まりなのかもしれない。
現在俺はお店にいつものように1人――ではない。少し前に何故かまたやって来た香良洲と居る。そして今、香良洲はというと――。
「まだここを離れちゃダメみたいですね」
そんなことを隣で言いながら先ほど解いて置いていったエプロンを再度付け直している。
「—―何がどうなってる?ここで食事をして――出て行ったら……じゃなかったのか?」
俺は隣で現状確認中だ。
「わかりません。お店を出たんですが――戻って来ちゃいました」
「ホント何が起こったのか。ってかなんで普通に再度こんなところで働こうとしているんだ?」
「こんなところと言ってますが。いろいろな人が美味しい。ありがとう。って言って帰って行くじゃないですか。優しい顔して」
「—―誰かさんは戻ってきたがな」
「あっ、そういえばそうですよ。私――ここを出ても結局ぶらぶらしてまたここに戻ってきたんですよ。何でですかね?」
香良洲がそんなことを聞いてくるが――俺にわかるわけはなく。
「わからん。ちゃんと塩むすび作ったんだが――ってやっぱりあの時香良洲が何か違うみたいな感じだったからか?」
「でも、とっても美味しい塩むすびでしたよ?」
「香良洲みたいなお客は初めてだからな。普通は――戻って来ることはない店なんだが……」
思い出して見ると、香良洲は料理を食べた後。ちょっと反応が違ったのだが――まあそれが原因なのかははっきり言って今のところはわからない。
ってか。今思い出すとそういえば香良洲が出て行った際。消えた感じがなかったんだよなー。である。うん。あそこで気が付くべきだったが。忙しくてか気が付かなかったという。ってかこれからここはどうなるのか。と、俺が思っていると。
「あっ。真菅さん」
「うん?」
「せっかく戻ってきたので言わせてください」
「何を?」
「ただいまです。また来ましたよ。塩むすびまたお願いします。私が満足する塩むすびを。あっお手伝いもしますね」
香良洲がそんなことを笑顔で言った。
「—―もう来るなよ。って言ったんだがな。っか。無駄に難易度高くないか?」
「かもしれませんね」
彷徨い飯。今日もちょっと彷徨っている人を正しい場所へと送り出している。稀に送りだせないのは――俺がまだ客が満足できるものを作れていないのだろう。
ってか。ほとんど素人の人間にこんな役目やらすなよ。である。
でもまあしばらくの俺の課題は――。
香良洲がここを出て行けなかったということは、彼女が料理に満足していないという事だろう。彼女も満足する料理を作る。考える必要があるらしい。
あとこの場所についてもちゃんと知らないといけないみたいだ。などと思いつつ。何故か「ただいま。また来ました」という言葉がしばらく頭の中に残った俺だった。
いや、やっぱり何回も来てほしいという気持ちがどこかに――いやいや、ここはそういう場所じゃないからな。今回は――イレギュラーだ。
彷徨い飯とりあえず今日も通常運転で営業中です。従業員が1人増えました。
(おわり)
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