グルメ小説コンテスト用 第4話 年齢は関係ない
腰の曲がったおじいさんが帰ってからしばらくしてだった。俺が店内の掃除をしていると――またお客さんがやって来た。
カランカラン……。
今日は多いな。と思いつつ振り返りながら……いつものように――。
「いらっ――しゃい……」
言えなかった。ちょっと驚きで詰まってしまったのだった。
――こんな客もこの店に来るのか。少し前に来るなよ。って、俺は思ったばかりなのに……あっ、俺が思ったからダメだったかと俺は思いつつ。再度入り口の方を見ると少し暗めのベージュ色の髪を揺らした――同年代くらいの女性が立っていた。
「ここは……」
俺と目が合うと女性はキョロキョロと周りを見渡していたので――。
「—―飲食店ですよ」
俺が言うと。
「飲食店……には見えないけど?」
うん。まあ、ぱっと見は飲食店じゃないか。机と椅子しかないというか。殺風景だからな。メニューとかもないし。と俺は思いつつ。なるべくいつものように……。
「ご希望の料理をお作りしますよ」
「……希望の料理。何でも?」
「何でもです」
「—―」
それからしばらく、女性は無言だった。お店を見ている感じだった。
まあ突然だと、なんだここ。なのだろうな。たまにこういうお客さんも居たので俺はその時と同じようにそっと見守るだけだ。
ちなみにちょっと気になることと言えば、材料が届いてないことだ――棚を見ても……先ほどのあまりしかまだない。ちょっと俺が引っかかっていると女性が席に座った。
「じゃあ――えっと……塩むすびを」
「—―はい。わかりました」
なるほど。米は先ほどの残りがあったから新しく追加されなかったのか。と、俺は勝手に納得し。またご飯の準備を始めた。
それからしばらく女性はずっと俺を見ていた。会話が無かったのでちょっと……だったが。まあこれも今までにあったこと。問題ない。普通に俺は注文された料理を作るだけだ。会話がない。ということもあるんでね。それに静かなのがいい人もいるみたいだし。
それからしばらくすると、今度はご飯のいい香りが店内に漂う。ご飯が炊けると俺はすぐに塩むすびを1つ作りお皿に置いて女性の前へと出した。本当は海苔があった方がいい気がしたが。海苔が無くてね。一応食べるために箸も出しておいた。
「お待たせしました」
「—―綺麗なおむすび」
女性はそう言いながら――ゆっくり手を動かした。それからしばらくまた静寂が訪れた。
少しして声を出したのは女性の方だった。
「—―美味しい。けど……何か違う?」
「……えっ?」
はじめてのパターンだった。
女性は塩むすびを食べ終えてはいるが――今までのお客さんとは違うことを言った。いや、まあ人それぞれだからそういう反応もあるのが普通だと思うがね。と、思いつつも何かミスったかな?と思っていると。
「あっ、いや、その美味しかったんですけど――何か違う気が――あっ、違います違います。本当に美味しかったんですよ。はい。でも――」
俺が多分変な顔をしていたからだろう。女性は慌ててそんなことを言いながら――。
「あっ。えっと、いくらですか?」
「—―えっ」
おっと、さらにレアパターン。ってか初パターンだ。代金を言ってくる人は初めてだよ。と俺が思っていると。
「あれ?財布――あれ?私――カバンどうしたっけ?」
今度は俺ではなく。女性の方の表情が――だった。ヤバイという表情になっていたな。ってか、ずっと言っていると思うがこの店――いろいろおかしいからね。代金は不要ってことで――。
「大丈夫ですよ。ここ無料ですから」
「えっ。ダメですよ」
「—―えっ?」
「いや。えっと――財布。カバンなんで持ってないんだろう?確か――ってそれは後で、えっと。そうだ。お手伝いします。はい。塩むすび代分働きます」
「……えっ?」
うん。俺。えっ?しか言ってないかもしれない。いやこんなお客初めてで――全くわからない状況となっていたのでね
だってこの店は最期の――なのだから。帰らないというパターンはどうすればいいんだよ。と思っている俺だった。
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