第200話 風流洞攻略14日目(7):第四三階層
――第四三階層。
「やあ、元気?」
転移して早々、子どもの声が聞こえる。
姿は見えないが、この声には聞き覚えがある。
パズズ戦の最中に聞こえた声と同じだ。
――ボクが助けてあげる。
――ここにはあまりいられないんだ。ボクが黒いのを払うから、その剣でやっつけて。
――じゃあ、行くよ。
――今だよ。
――なかなか強いね。
「あのとき助けてくれた精霊か?」
「うん。そだよ」
「もしかして、風の精霊王様の子どもか?」
「ぴんぽーん。大正解」
「ママが探してたぞ」
「あはは、じゃあ、ボクを捕まえてごらん。奥で待ってるよ」
そう言い残して、風精霊の気配が消えた。
俺は風の精霊王様の言葉を思い出す。
――恥ずかしながら、私の息子が家出してしまいました。風流洞のどこかに潜んでいます。私が追いかけると逃げてしまいます。ついでよいので、もし出会ったら私のもとに連れて来てもらえますか?
風は気まぐれ。
捕まえようとすれば、逃げてしまう。
声の調子だと、捕まえるのには苦労しそうだ。
「むー、風くさいー」
サラが鼻をつまんで、苦い薬でも飲んだような顔をする。
「大丈夫か?」
「あいつ、きらいー」
「知ってるのか?」
「きらいー」
知っているような態度だが、話すのも嫌そうだ。
「ねえ、今、精霊の強い気配がしたよね?」
「シンシアも感じた?」
「ええ。風の精霊みたいだけど、他の子とは違う気がしたわ」
「なに、なんかいたのか?」
ステフは気づかなかったようだが、【精霊知覚】を持ってるシンシアは感じ取ったようだ。
「精霊?」
「ああ――」
ルーカスにも分かるように、俺は説明する。
「信じられないが、そもそも、朝から信じられないことだらけだ」
風流洞に第四一階層以降があることすら、信じられない話だ。
ルーカスも話には聞いていても、実際に体験して驚いているのだろう。
顔には一切出さないので、分からないが。
「なるほど。捕まえよう!」
「やる気だな」
「ああ、
もし、女の子だったら、ステフの暴走が凄そうだ。
それを感じ取ったのか、俺の近くにいた風精霊がブルッと震えた。
「シンシアはなにか感じる?」
「消えちゃったみたいで、今はなにも感じないわ」
「サラ?」
「くさいのやー」
「どちらにしろ、第四三階層を攻略するしかないな」
追いかければ逃げる相手。
得てしてそういう奴は、放っておけば向こうからちょっかいを出してくる。
「おー!!!」
少し進んでみて分かったが、第四三階層は今までのフロアとは様相が異なっていた。
第四一階層も第四二階層も、真っ直ぐな通路と部屋からなるシンプルな構成だった。
それに対し、このフロアは迷路のようにぐにゃぐにゃと入り組んでいる。
通路も狭くなったり、広くなったり。
注意深くマッピングしながら、俺たちはゆっくりと進んでいく。
先頭はシンシアだ。
「どう?」
「なにか、この階、風精霊が戸惑ってる」
「さっきのアイツのせいかな?」
「ええ。だから、急に敵が襲ってくるかも」
彼女の【精霊知覚】による探知が使えない。
もう一人の探知役であるサラはといえば、すっかりとへそを曲げてしまい、ふくれっ面だ。
二番目はステフ。
三番目は俺。
最後尾がルーカスだ。
彼が後ろにいるだけで、安心感が段違いだ。
背後から襲われても、彼に任せれば大丈夫だろう。
「ストップ」
シンシアが止まり、メイスを強く握る。
ステフが前に出て、カイトシールドを構える。
俺はダガーを抜いて、精霊術を使えるように準備する。
ルーカスは後ろを向いて、バックアタックに対応できるように。
――ざわり。
「来るッ!」
一〇メートルほど先。
壁を構成する世界樹のツタがスルスルと伸び――。
その先端から少女が生まれ落ちた。
◇◆◇◆◇◆◇
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次回――『風流洞攻略14日目(8):少女モンスター』
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