第201話 風流洞攻略14日目(8):少女モンスター

 一〇メートルほど先。

 壁を構成する世界樹のツタがスルスルと伸び――。

 その先端から少女が生まれ落ちた。


「ドリアード」


 シンシアが名前だけを告げる。

 弱点までは分からない。

 やはり、【精霊知覚】の力は落ちている。


 あどけない少女のよう。

 ビキニのように身体を葉っぱを覆っただけの姿。

 手足は先端につれて、樹木の枝へと変わる。

 そして、つるで編まれた長い長い緑の髪。


 俺は瞬時に作戦を組み立てる――。

 チラリと前を見ると、ステフがドリアードを目を奪われ前のめりになったが、すぐに冷静さを取り戻した。

 普段はアレだけど、一応ステフも冒険者だ。

 彼女が冷静になると同時に、俺の作戦も組み上がった。

 重要な順番に指示を出す。

 今回、サラは戦力として期待していない。


「ステフ、フィックスド・ポイント」

「シンシア、突撃準備」

「ルーカス、待機」


『――【不動盾フィックスド・ポイント】』


 ステフがカイトシールドを床に突き刺す。

 二人は構えたまま動かない。


 ドリアードはあやしく微笑むと、頭を振る。

 その反動で、蔓でできた緑髪が数本、ムチのようにしなる。

 シンシアはともかく、俺だったら避けられたかどうかギリギリの速さだ。

 だが、回避はともかく――。


 ――ガンッ。


 ステフの盾を破れるほどの威力はなかったので、ひと安心。

 勝てない相手ではない。

 攻撃力は分かった。

 次は防御力――。


『風の精霊よ、集い、固まり、縮まりて、敵を穿うがつ弾となれ――【風凝砲ウィンド・キャノン】』


 風砲弾を撃ち出す。

 今の俺の最大攻撃だ。

 これが通じなかったら――。


 ――ドォォン。


 風砲弾はドリアードを木っ端微塵にする。

 警戒心は解かないが、安堵の空気が流れる。


「オーバーキルだったな。このフロアもどうにか行けそうだ」


 ダメだったら、第四二階層に戻ってレベル上げしなきゃならなかった。


「シンシアだったら、躱せてた?」

「うん。余裕」

「頼もしいな。ステフは受けてどうだった?」

「ああ、問題ない」

「女の子だから、危ないかと思ったけどな」

「それくらいの分別はついている。ただ、一瞬、我を忘れそうになっただけだ」


 真実の愛に目覚めてなかったら危なかった、という呟きは聞かなかったことにしておこう。


「ルーカスから見たらどう?」

「戦える」

「そうか」


 俺は手に残る感触を確かめるように、手を握って開いて、繰り返す。

 戦闘中はまったく気にならないが、人型モンスターを倒すのは抵抗がある。

 醜悪なゴブリンや生物らしからぬゴーレムなら気にならないが、幼い女の子の姿をしていると、心のどこかに引っかかりを感じる。


 だが、それは悪いことではないと思う。

 戦いに支障が出るならともかく、そうでない範囲内でこの気持ちを忘れてはいけないと。


 人型モンスターを倒していくと、その抵抗感が薄れてく。

 人型モンスターを倒すことに、快楽を覚えるようになる。


 そして、それを続けるうちに物足りなくなり、殺人に手を染める者も――。


 その数は少なくない。

 俺も知っている中でも、一人いる。


 そうなってはならない。

 この気持ちを手放してはダメだ。


「作戦会議だ。次にドリアードが現れたときは――」


 俺の考えを伝える。


「複数現れた場合は――」

「未知のモンスターと同時の場合は――」

「挟み撃ちされた場合は――」

「なにか、他にアイディアは?」


 俺の問いに、ルーカスが手を挙げる。


「――――」

「なるほど。一理ある。ルーカスのアイディアを組み込んで――」


 作戦を修正し、共有する。


「シンシア、近くに気配は?」

「探知できる範囲にはいないわ」

「なら、進もう」


 俺たちは隊列を組み直し、攻略を再開する。

 しばらくすると、また、ドリアードが現れた。

 今度は二体だ――。


「プランB」


 俺の合図で、皆が動き出す――。






   ◇◆◇◆◇◆◇


【後書き】



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 書籍第1巻、雨傘ゆん先生の素晴らしいイラストで発売されます。

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次回――『風流洞攻略14日目(9):異変』

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