第197話 風流洞攻略14日目(4):ルーカスの強さ

「おいたん、強いー」

「ああ」


 サラはふわふわと宙を飛び、ルーカスに近づく。

 彼女だけが、いつもと変わらない。

 そのおかげで、俺は調子を取り戻せた。


「ずいぶんと時間をかけたな」

「初めてのモンスターだからな。慣らしと様子見、後は――」


 それだけではないと思っていたが、続くルーカスの言葉が俺の考えは正しかったと告げる。


「俺の強さを知っておいてもらいたかった」

「十分過ぎるほどだったよ」


 あれだけの戦い方を見せられたら、誰も文句は言えない。

 男嫌いのステフですら、ポカンと口を開けたまま固まっている。


「本気を出したら?」

「一撃だ」


 力強い仲間が加わったと思っていたが、俺の予想を遥かに超えている。

 メンザも同じ【3つ星】だが、彼は後衛支援職で、本気を出していなかった。


 これが【3つ星】の本気か――。


 『最果てへ』を解散し、現役を退いて十数年。

 そう思っていたのだが――。

 俺の顔から察したのだろう、ルーカスが告げる。


「仕事のない日は『巨石塔サード・ダンジョン』に潜っていた。『最果てへ』のときよりも強くなっている」

「…………」

「ドライの街の冒険者を取り締まるんだ。それ以上の力がないと務まらない」


 もっともらしい言葉だ。

 信じてしまいそうになる。

 だが、彼の真意は他にある。


 彼が鍛え続けたのは、サージェントの命を奪い、『最果てへ』を終わらせるため。


 そのためだけに、十数年間、鍛え続けたのだ。

 【3つ星】冒険者の執念――恐ろしいものだ。


「聞いていなかったが、今のレベルは?」

「334」

「俺とは300を越えたばかり。すぐに追いつくよ」


 俺の言葉をルーカスは真っ正面から受け止める。

 そして――。

 ルーカスは「ふっ」と笑う。

 バカにした笑いではない。

 思わずこぼれてしまった笑みだ。

 自覚していなかったようで、彼の眉がピクリと動く。

 次の瞬間には、いつもの彼に戻っていた。


「追いついてみろ」


 ――それが今の俺の仕事だ。

 言葉の裏で、彼の顔がそう告げていた。

 昨日、彼が言っていたことを思い出す。


 ――新生『最果てへ』は俺たちじゃない。誰かを『最果てへ』連れて行く――そういう意味だ。


「俺は戻ったんだな。冒険者に」


 短い言葉には様々な感情が閉じ込められていた。

 何年間も心の奥底に沈ませていた感情。

 一気に噴出し、一瞬で凝縮する。

 その結果が――この言葉だ。


「ルーカス殿っ!」


 復活したステフがルーカスのもとに駆け寄る。


「ルーカス殿。いや、ルーカス師匠。私に刺突を教えてくれないだろうか?」


 彼女の目には尊敬の星がキラキラと輝いている。


「私の獲物はコレだ」


 ステフは自分の武器――スティレットを見せる。


 ここ風流洞の第四〇階層ボスであるイヴィル・トレント・ロードからのドロップ品。

 先日手に入れたばかりの武器だ。

 黒く輝く刀身四〇センチほどの刺突剣。

 両側に刃はなく、先端が鋭利に尖っている。


 大きなカイトシールドで敵の攻撃を防ぎ、隙を見て敵の急所を突く――それがステフの戦闘スタイルだ。


「どうやったら、直剣であんな刺突ができるのか?」

「修練」

「私も頑張っているつもりだが、とても自分がアレをできるとは思わないのだが」

「二十年も続ければ、誰でもできる」

「そうなのか……険しいな」


 ルーカスの言葉だが、大抵の者は二十年も続けられない。

 それが一流とその他の決定的な差だ。


「後で稽古をつけてもらえないだろうか?」

「あっ、ズルい、私も」


 シンシアも頭を下げる。

 ルーカスは俺を見る。


「ダンジョンを出たら、やってもらえないか?」

「構わない」

「やったー!」

「ありがとうございます!」

「どうせなら、二対一でやってもらえば」


 それでも、ルーカスが勝つだろう。

 俺が加わって三対一なら勝てるとは思うが。


「それより今はダンジョンだ。このフロアだと、参考にならない。上に行こう」


 俺たちは第四二階層へ向かう――。






   ◇◆◇◆◇◆◇


【後書き】



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次回――『風流洞攻略14日目(5):アラネア・ポリュプス再戦(上)』

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