第196話 風流洞攻略14日目(3):ルーカスVSガーディアン

 ルーカスは揺るぎのない足取りで、ガーディアンが待つ部屋へと入っていく。


「なあ、本当に大丈夫なのか?」

「おいたんなら、平気ー」


 心配そうなステフに、余裕たっぷりのサラ。

 俺とシンシアはサラより。

 ルーカスが大丈夫だと言った以上、大丈夫だろう。


「【3つ星】の戦い方、よく見ておこう」


 俺たちは部屋のすみに陣取って、戦いを観察する。


 ガーディアンはルーカスの倍近い身長。

 彼に気がついたガーディアンがずしりずしりと重い足取りで近づく。


 【闘気纏武(とうきてんぶ)】を発動していない。

 なくても余裕で勝てるということだろう。


 ルーカスの装備はオリハルコンの軽鎧。


 オリハルコン装備はサード・ダンジョン上層に挑む冒険者が使うものだ。

 装備だけでも、俺たちのかなり上をいっている。

 だが――。


「剣を抜かない、だとッ!」


 ステフが叫ぶ。


 ダンジョンに入る前から、ルーカスは剣を持っていない。

 戦いの直前まで武器をマジックバッグにしまっておく冒険者は少なくない。

 両手を空けておいた方が、有利な場合があるからだ。


 けれど、この状況で剣を抜かないというのはあり得ない。

 いったい、ルーカスはなにを考えているんだろうか?


 立ち尽くすルーカス。

 近づくガーディアン。

 大きな拳を振り上げ。


「危ないッ!」


 再度、ステフが絶叫。

 それでも、ルーカスは動かない。


 巨大な拳がルーカスの頭を殴り飛ばす――。

 そう見えたが、それは残像だ。

 ルーカスは最小限の動きで回避し。


 ――刺ッ。


 銀色の線が走り抜ける。

 振り下ろされた腕の関節をひと突き。

 ガーディアンの腕関節に穴が空き。

 そこからヒビが広がり。

 腕がボキリと砕け落ちた。


「なっ、なんだ今のはッ!!」


「シンシアは見えた?」

「ええ……鳥肌が立つわ」


 俺もかろうじて目で追えたが、あれが自分だったら避けられるかどうか、疑問だ。


「おいたん、いけー」


 ガーディアンの拳を躱しながら、マジックバッグからミスリル直剣を取り出し、それを握り、ひと突き。

 これが一瞬の間に起こったのだ。

 剣をマジックバッグにしまっていたのは、いつ、どこから、攻撃が始まるか、それを悟らせないためか。

 こんな戦い方もあるんだな。


「シンシアなら躱せた?」

「この靴があればね。なかったら微妙だわ」


 この靴――世界樹の靴。


 千年前の精霊術士アヴァドンのパーティーメンバーで、初代エルフ女王のエルフリーナ。

 彼女が後の精霊術士の仲間のために隠した三種の王器――そのひとつ。

 第四二階層ボス、アラネア・ポリュプスのドロップ品だ。


 効果は移動速度を上げるものだが、その効果は強力過ぎて、シンシアくらいのずば抜けた運動神経がないと使いこなせない。


 世界樹の靴を装備したシンシアに匹敵する、ルーカスの動き。

 見とれてしまうのも……当然か。


 その間にも、ルーカスの一人舞台は進んでいく。


 姿が消え。

 銀の閃光が生じ。

 その度に、ガーディアンがバラバラにされていく。


 両腕を失い。

 両足を失い。

 胴体は削られていく。


 やがて胴体だけになったガーディアン。

 胸部も削られ、弱点である緑色の魔法核まほうかくが剥き出しになる。


 最後に、核を狙ってひと突き。

 ミスリルの剣先は核を貫き――ガーディアンはたおれた。


 戦いが終わっても、俺たち三人は口を開くこともできず、立ち尽くす。

 あまりにも、圧倒的すぎた。


 俺たちが初めて戦ったときは、何十分もかけたギリギリの戦いの末、ボロボロになって勝利をもぎ取ることができた。

 俺なんか両腕の肘から先が千切れかけたくらいだった。

 それなのに、初戦ここまで一方的だとは……。


 確かにゴーレムを狩りまくって強くなった俺たちなら、ソロでもガーディアンに勝てる。


 だが、驚くべきは、その戦い振りだ。

 ルーカスの攻撃はすべて刺突攻撃だった。

 刺突攻撃は先端が尖っているほど――先端の面積が小さいほど、魔力が収束し威力が高まる。

 直剣は叩き斬るための武器だ。

 決して、刺し貫く武器ではない。

 それなのに、ルーカスは刺突攻撃だけでガーディアンを倒したのだ。

 いくらガーディアンが刺突攻撃に弱いとはいっても、とても考えられない戦い方だ。






   ◇◆◇◆◇◆◇


【後書き】



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 書籍第1巻、雨傘ゆん先生の素晴らしいイラストで発売されます。

 書籍版はweb版から大幅改稿、オリジナルバトル追加してますので、web読者の方でも楽しめるようになっています。

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次回――『風流洞攻略14日目(4):ルーカスの強さ』

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