第195話 風流洞攻略14日目(2):冒険者ルーカス

「むっ、こいつは――」


 サラはルーカスに視線を向け――。


「おいたーん」


 駆け出して、ルーカスに飛びつく。

 ルーカスは表情を変えずにサラを受け止める。


「おいたんはイイやつ。サラがほしょうするー」

「君が火の精霊王の娘か」

「そうだー。われが【燎燐りょうりん】のサラだー」

「短い間かもしれないが、よろしくな」

「そうなのー?」

「ああ、ルーカスは一時的な加入だ」

「そっかー。まあいいやー。あっ、そうだ」


 なにか閃いたと、サラは飴を取り出した。


「これあげるー。元気出してー」

「チョコ?」

「うん。じいじがくれたー。でも、おいたん、かわいそうだから、あげるー」

「いただくよ。美味しいな」

「へへー」


 ルーカスがサラと馴染めるか心配だったが、杞憂だったようだ。

 サラは相手がどんな人間か本能的に察することができる。

 ルーカスが第三の人生を歩むためにも、サラと行動をともにするのは良い影響になりそうだ。


「さて、顔見せも終わったし、攻略を始めるぞ」

「おー!」


 俺たちは第四一階層へと転移する――。


「本当だったのだな」


 ルーカスは短く呟くだけだが、その視線は世界樹の外へ釘付けだ。

 俺たちも初めての時は、その高さ、その見晴らし、遠くまで続く光景に引き込まれた。


「すまなかった」

「いや、気にすることない。ここが第四一階層だ」

「ああ」

「このフロアは部屋と通路だけ。モンスターは部屋にしか存在しないし、部屋から出て来ない」

「うん」

「出現モンスターは一種だけ。ウッド・ゴーレム・ガーディアン。俺たちはガーディアンと呼んでいる。各部屋に一体だけだ」

「強さは?」

「メンザの話だと、巨石塔サード・ダンジョン終盤くらいだ」

「特徴は?」

「デカい。三メートルくらいある。弱点は刺突と雷属性。それ以外には耐性がある」

「分かった」

「いけるか?」

「問題ない」

「なら、行こうか」

「最初はソロでやらせてくれ。俺の実力を示しておきたい」

「ああ、やってくれ」


 ルーカスほどの男なら、戦力を見誤ることはないだろう。

 どうしても、というピンチになるまでは、彼に任せよう。


「おいたん、がんばるー?」

「ああ」


 ルーカスは淡々と応える。


 【3つ星】だけでなく、ボウタイを十年以上務めてきたのだ。

 その胆力は俺以上だろう。学ばせてもらうことはいっぱいある。

 短い期間かもしれないが、彼からどれだけ吸収できるか――俺たちに大きな成長を与えてくれるはずだ。


「凄い気迫ね」

「ああ、だてじゃない」


 シンシアが俺に小声で話してくる。

 どんな戦いを見せてくれるのか、俺も楽しみだ。


 歩きながら、俺はルーカスに話しかける。


「たしかジョブは【剣王】だったよな?」

「いや、今は【剣鬼】だ」

「俺の記憶違いか?」

「いや。以前はそうだった。ボウタイに入って戦っているうちに変わった」

「もしかして、ジョブランク4?」


 伝説のジョブランク4。

 俺が知る限りは千年前のアヴァドンだけだ。


「いや、ジョブランクは3のままだ」


 ランクが上がらずにジョブだけ変化する。

 珍しいことだが、たまにあることだ。

 しかし、【剣鬼】とは、聞いたことがないジョブだ。


「スキルはどんなのがある?」

「スキルは一切使えない」

「マジか?」

「【闘気纏武(とうきてんぶ)】――それしかできない」


 言われてみれば、サージェントの戦いでも、ルーカスは一切スキルを浸かっていなかった。

 そんなジョブが本当に存在するのか?

 早くルーカスの戦いを見てみたい。


 しばらく歩き、シンシアの探知で一体が引っかかる。


「この先よ」

「ルーカス?」

「見ててくれ」


 何の気負いもなく、ルーカスは歩みを進める。

 まったく揺るぎのない足取りだ。






   ◇◆◇◆◇◆◇


【後書き】



【6月30日発売】

 書籍第1巻、雨傘ゆん先生の素晴らしいイラストで発売されます。

 書籍版はweb版から大幅改稿、オリジナルバトル追加してますので、web読者の方でも楽しめるようになっています。

 2巻も出せるよう、お買い上げいただければ嬉しいです!



次回――『風流洞攻略14日目(3):ルーカスVSガーディアン』

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