第194話 風流洞攻略14日目(1):顔合わせ

 ルーカスの加入が決まって、お開きになった。

 メンザもルーカスも事後処理で忙しいそうだ。

 とくにルーカスは急な引き継ぎで大変らしい。


 ――信頼できる部下がいるから、安心して任せられる。


 なんでも、後任は先日共闘したマレという女性らしい。

 彼女はルーカスの腹心らしい振る舞いをしていたので納得だ。


 ――そして、翌朝。


 風流洞入り口で待ち合わせすることになっている。

 俺とシンシアが到着したとき、すでにルーカスが待っていた。


「おはようございます」

「ああ、おはよう。敬語は不要だ」

「そうだな。よろしく、ルーカス」

「リーダーはお前だ。俺はそれに従う」


 昨日も感じたが、生真面目で責任感が強い男だ。

 そして、本来は口数が少ないのだろう。

 短い会話で、それが伝わってきた。


 そんなやり取りをしていると、すぐにステフがやって来た。

 予想通り、いつもより機嫌がよくないように見える。


「あなたがルーカスか? ステフだ」

「ルーカスだ」

「ステフ」

「ああ、分かっている。爺さまから散々言われたからな」


 男嫌いの彼女だが、そこはちゃんと弁えている。

 俺と初対面のときに比べたら、成長したものだ。


「私は男が嫌いだ」

「…………」

「だが、数少ない【3つ星】への敬意は持ち合わせている」


 そこでステフが頭を下げた。


「至らぬ身。指導していただけるとありがたい」

「分かった。遠慮しないが、それでもいいか?」

「ああ、それこそが私の望みだ。よろしく頼む」


 信じられない。あのステフが……。

 その変わりように、俺もシンシアも戸惑うが――。


「私は真の愛に目覚めた。風の精霊王様に認めてもらうために、どんな努力も厭わないと決めたのだ」


 この前、風の精霊王様に出会ったときにも「真の愛」がどうたらって言っていた。

 冗談半分に聞いていたのだが、どうやら、本気らしい。

 まず報われることはないが、頑張って欲しい。


「挨拶も済んだし、早速、入ろう。もう一人いるしね」


 いつもと違い、第一階層からダンジョンに潜る。

 ルーカスが第四一階層に転移できるようにするためだ。


 ダンジョンに入るとすぐに彼女が目に入ったのだが――。

 おかしい……。

 いつもなら飛びついてくるはずなのに……。

 今はむすっとふくれっ面だ。


「サラ?」


 俺が声をかけるとサラはぷいっと顔を背けた。

 ご機嫌斜めなようだ。


「怒ってる?」

「…………」


 こんなに怒っているサラを見るのは初めてだ。

 その理由を考え……あっ!


 思い当たった俺はサラに近づく。

 逃げるかも、と思ったが、サラはその場から動かない。


「昨日は来られなくて、ごめんな」


 サラの頭をなでながら、サラに魔力を注いでいく。

 俺の魔力はサラの大好物だ。

 これで機嫌を直してくれるといいのだが……。


 魔力を流すにつれ、こわばっていたサラの表情が柔らかくなっていく。


「むー、あるじどのは、しょうがないヤツだー」

「ごめんごめん、許してくれるか?」

「しかたないなー。きのうは、なんで来なかった?」

「魔族が現れた」

「まぞく!?」

「ああ――」


 サラにパズズのことを説明する。


「むー、もうそんな状況なのかー」

「でも、俺も悪かった。顔を見せるだけでもすべきだった」

「悪いと思うなら、あれくれー」

「あれ? ああ、これか」

「それー」


 精霊石を与えると、サラはパクッと身体に取り込む。


「ぱわーあっぷ!!」


 ニコリと笑顔を見せる。

 機嫌は完全に直ったようだ。

 サラは俺から視線をそらし。


「あっ、ままー」


 シンシアに駆け寄って、抱きつく。


「ごめんね、サラちゃん。昨日は会えなくて」

「ううん。ままは悪くないー。悪いのはあるじどのー」


 続いて、ステフに――。


「おまえも来たかー」

「ああ、元気にしてたか?」

「む?」


 前回はサラに抱きつこうとしたステフだが、今日はおとなしい。

 真実の愛とやらのおかげだろう。


「わかれば、よろしい」


 相変わらず、ステフには上からだ。

 そんな背伸びしたような態度のサラをステフはほっこりと見ていた。


 そして、サラはキョロキョロして――。


「じいじは?」


 じいじ――メンザにサラは懐いていた。

 まるで祖父と孫のように。

 メンザが来られないことを説明すると、サラは寂しそうな顔をする。


「残念だけど、しょうがないなー」

「ああ、メンザもサラに会いたがってたよ」

「よろしく伝えておいてー」

「ああ」


 メンザが落ち着いたら、会わせてやろう。

 パーティーとして活動はできなくても、顔見せくらいさせるつもりだ。


「むっ、こいつは――」


 サラはルーカスに視線を向け――。






   ◇◆◇◆◇◆◇


【後書き】



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 書籍第1巻、雨傘ゆん先生の素晴らしいイラストで発売されます。

 書籍版はweb版から大幅改稿、オリジナルバトル追加してますので、web読者の方でも楽しめるようになっています。

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次回――『風流洞攻略14日目(2):冒険者ルーカス』

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