第193話 ルーカスの提案
ルーカスの口から語られる、衝撃の事実。
他のメンバーを殺し、姿をくらませたサージェント。
復讐に燃えるサージェントの狙いがルーカスであるのは明らか。
だが、ヤツはいつまでもルーカスの前に姿を現さなかった。
「――アイツを殺すまで、『最果てへ』は終わらない。そのために、俺はボウタイに入った」
ボウタイの正式名称は『冒険者対策本部』。
冒険者が犯す犯罪やトラブルに対処するための、冒険者ギルドの一部門だ。
その構成員は名前も姿も秘されている。
冒険者に対して思うところのある者がスカウトされると言われている。
その意味では、ルーカスほどの適任者はいないだろう。
「あれから十年以上経った。だが、ようやくケリをつけられた」
あの戦い。二人にはそこまでの因縁があったのか。
「俺は一昨日死んだ――そのつもりだった。『最果てへ』を終わらせて、俺の役目は終わった。それ以上、生きる意味はなかった」
確実にサージェントを仕留めるために、ルーカスは自爆攻撃をとった。
最初から死ぬつもりだったのか……。
「だが、生き延びてしまった」
シンシアを見る目は寂しげだ。
ルーカスを救ったのはシンシアの回復魔法。
彼の命を救えたのは、シンシアだけだった。
他の回復魔法――【聖女】クウカ――であっても、彼を助けることはできなかった。
あの場所にシンシアがいたこと。
彼女がルーカスの死に場所を奪ったことになる。
「余計なことでしたか?」
尋ねるシンシアの目は強い信念がこもっている。
相手にどんな事情があれ、癒やすと決めた以上、必ず救ってみせる――回復職としての矜持だ。
ルーカスは首を横に振る。
「今となっては感謝している。助けてくれて、ありがとう」
深く頭を下げる。
「仲間を、パーティーを失い、サージェントとの因縁を終わらせた。俺は二度死んで、二度生き返った。三度目の人生を生きていこうと思う」
「よかったです」
短い言葉にはシンシアの思いがこもっている。
自然とルーカスが微笑むことができたのは、シンシアならではだ。
「俺は今日付けでボウタイを辞める。部下には止められたがな。だが、俺がボウタイでやるべきことは終わった」
「私からの提案なんですよ」
メンザが初めて口を開いた。
「ラーズたちは一日も早く攻略を進めなければならない」
「ええ、明日から再開しましょう」
「そのことです。私はしばらくパーティーから離れます。ギルマスとしての仕事を優先させなければならないのです」
「それなら、仕方がないですね」
メンザが抜けるのは痛いが、こうなることは半ば予想していた。
俺が引き留めることはできない。
「代わりと言ってはなんですが――」
メンザはルーカスを見る。
そういうことか――。
「俺の第三の人生は、新生『最果てへ』にすべてを捧げる」
「その意味は?」
「『最果てへ』。俺たちがそこにたどり着く――という意味で名づけた」
シンプルだが分かりやすいパーティー名。
最初から前しか見ない――決意が伝わってくる。
「新生『最果てへ』は俺たちじゃない。誰かを『最果てへ』連れて行く――そういう意味だ」
五大ダンジョン制覇という悲願を次の世代に託す――その意味では彼ほどの適任者はいないだろう。
「一時的で構わない『精霊の宿り木』に参加させて欲しい」
俺はシンシアと視線を交わす。
まったく予想していなかった展開だが、俺もシンシアも冒険者。
悩むことなく、合意が得られた。
「こちらこそ、お願いします」
俺たちは握手を交わす。
先日の戦い振りを見ても、ルーカスは鈍っていない。
今すぐにでも、サード・ダンジョンに挑めるだろう。
メンザの穴は彼が埋めてくれる。
問題は、男嫌いのステフがなにを言うかくらいだ。
◇◆◇◆◇◆◇
【後書き】
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次回――『風流洞攻略14日目(1):顔合わせ』
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