第190話 事情聴取(上)
――翌日。
俺たちは事情聴取のため、冒険者ギルドの一室に集まっていた。
皆、疲れているだろうに、誰の顔にも疲労が浮かんでいないのはさすがだ。
「では、始めさせてもらいます」
最初に口を開いたのは、エルフ王族であり、ここツヴィーの街の治安部門を率いるクラウゼ第二王子殿下。
今回の事情聴取は彼が主導する。
「書記はロッテに務めてもらい、議事録として残します。大丈夫とは思いますが、虚偽の申告はしないようお願いします」
「『精霊の宿り木』専属担当官のロッテです」
みんな顔見知りだが、記録に残すための確認だ。
「参加者は――」
「冒険者ギルド、ツヴィー支部長のメンザです」
「
「続いて、『精霊の宿り木』のお二人」
「ラーズです」
「シンシアです」
「以上、六名が参加者となります。一昨日の事件は、『ロモスニーユ教団とローガン商会による大規模誘拐及び魔族召喚未遂事件』略名『召喚未遂事件』と命名されました」
あの晩、魔族召喚を試みる教団と戦ったが、その名前は聞き覚えのないものだった。
「まずは、事実確認から始めます。お二人に客観的な出来事を時系列で述べてもらいます。ラーズからお願いします」
「分かりました。最初は――」
始まりは孤児院の双子の女の子ララから、ロロが誘拐されたと助けを求められたことだ。
ロロを助け、誘拐された子どもたちが集められている拠点を潰していった。
その過程で、ヴェントンと出会い、本拠地がローガン商会だと知った。
ボウタイや治安部隊と一緒に商会に突入。
ウィード率いる冒険者崩れと戦闘になったこと。
ヤーパーという男が魔族になろうとしたが、パズズという魔族に身体を乗っ取られて死んだこと。
俺がパズズを倒したこと。
その後の処理は、治安部隊に任せ、俺とシンシアは引き上げたこと。
昨晩、シンシアとの会話で整理しておいたので、スラスラと話せた。
「分かりました。次は、シンシア、お願いします」
「はい」
誘拐の拠点潰しをしたときは、シンシアと別行動だった。
それ以外は、彼女の供述は俺とほとんど同じだ。
シンシアが供述を終えると――。
「では、こちらからいくつか質問をさせていただきましょう」
それから、いくつか質問が続いた。
クラウゼ殿下だけではなく、メンザとヴェントンからも、問いが投げかけられる。
俺とシンシアは伝えられることをすべて伝えた。
「――それでは、聴取はここまでです。ご協力、感謝いたします」
クラウゼ殿下は頬を緩める。
「ここから先は気楽にしましょう。お二人も事件の全貌を知りたいでしょうから」
今回の事件、発端はふたつあった。
ひとつ目は大規模誘拐事件。
一ヶ月くらい前から、子どもがいなくなるという噂がこの街に広がり始めた。
ただ、最初のうちはあまり問題だとは思われなかった。
さらわれたのは貧しい子どもたち。
残念ながら、
事件に巻き込まれて死ぬ者もいれば、ふらっといなくなる者もいる。
問題となったのは、エルフ王女ヴェストレムが誘拐されたからだ。
エルフ王族に統治されるこの街は、政治的に安定しており、政争に巻き込まれたとは考えられない。
身代金目的かと思われたが、犯人側からの要求は一切ない。
王女誘拐については箝口令がしかれ、市民には知らされず、クラウゼ殿下が率いる治安部隊が捜索にあたることになった。
捜査の途中で、誘拐は王女殿下だけでなく大規模に起こっていると判明し、たどっていくとローガン商会にたどりついたというわけだ。
もうひとつの発端は禁薬だ。
クウカがクリストフに用いた禁薬。
ドライの街で各種の禁薬が使用されていることをヴェントン率いるボウタイが発見。
大規模な生産が行われていると推測し、その生産場所は世界樹による資源が豊富なここツヴィーの街で判断。ヴェントンが調査にやって来た。
彼が調査しているうちに、誘拐事件との関連性を見出し、ボウタイと治安部隊が協力して捜査するようになったのだ。
ふたつが絡まり、収束したのが――ローガン商会だった。
そして、事件を通じて知る。
ローガンは弱みを握られていただけ。
主犯はウィードとヤーパー。
利用されたのが、ロモスニーユ教団。
説明を受けて、俺はようやく事件の全貌を把握した。
「そういうことだったのか……」
「そういうわけです。そちらからも訊きたいことがあるのでは?」
事件について教えてくれるだけではなく、こちらの質問にも答えてくれる。
それなりに、重要人物だと認められているようだ。
「一番気になるのは魔族です。アインスのハンネマン支部長から、我々の話は伝わってるのでは?」
◇◆◇◆◇◆◇
【後書き】
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次回――『事情聴取(下)』
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