第191話 事情聴取(下)
「一番気になる気になるのは魔族です。アインスのハンネマン支部長から、我々の話は伝わってるのでは?」
俺の問いに答えたのはメンザだ。
二人は同じ支部長と言うだけでなく、【3つ星】パーティー『五帝獅子』の元メンバー。
情報伝達、意思の疎通はしっかりしているはずだ。
「魔王復活と精霊術士の関係については、冒険者ギルド全体だけではなく、各国上層部の間で共有されています。クラウゼ殿下含めエルフ王家も知っております」
メンザはパーティー時はフランクな話し方だが、今はギルドマスターとして話している。
「千年前の魔王封印については、こちらも総力を挙げて調査してますが、現時点では、はかばかしい成果は得られてません」
メンザに続いてヴェントンが補足する。
「魔族に関しては、むしろ、ヤーパーの方が我らの先を行っていた。実際に魔族が召喚できることも、それを試みる者がいたことも、まったく把握していなかった」
「ヤーパー……」
ヤーパーは自ら魔族になろうとして、パズズに身体を乗っ取られて死んだ。
まさか、人間の力で魔族を生み出せるとは思ってもいなかった。
精霊王様からも、そのような話は聞いていない。
「不幸中の幸いのなのは、ヤーパーはどことも繋がりがない。アレはヤツの独自研究だ」
「ということは、第二、第三のヤーパーが出てくることはないと?」
「ああ。人間性はともかく、天才であったのは間違いない。それでも、完成には至らなかったようだがな」
「あの人の研究記録は残されているんですか?」
シンシアが問う。
「ああ。ローガン商会の隠し部屋にあった。現在、ノネミス主導で調査中だ」
ノネミス――ボウタイのツヴィー本部長だ。
人柄を悟らせない
彼女ほどの適任者はいないだろう。
「その情報がバレる恐れは?」
「信頼できる人間しか関わらせていないが、たしかに漏洩の可能性はある」
「ですが、あのようなテロを再現するのは不可能です」
クラウゼ殿下が断言する。
「今回の事件は、入念な準備のもとに行われました」
大商会の財力を費やし。
エルフの王女を拉致し。
一〇〇人以上を誘拐し。
大規模な装置を準備し。
そこまでして、初めて実行できたのだ。
「我々はこれまで以上に目を光らせます。実行はまず不可能でしょう。それよりも、ヤーパーの研究から魔族に関する情報を得る方がいいと判断しました」
殿下の言葉にメンザとヴェントンが頷く。
冒険者ギルド側も同じ意見ということだ。
「あの教団はなんだったんですか?」
「ロモスニーユ教団ですね。あれはたいしたことないです。ただ、利用されただけですね」
殿下の表情も些事であると告げている。
「人生に不満を抱えた者たちが集まって、それっぽいことをしたり、魔王に祈ったりしてるだけです。今回の件でも、実働部隊はウィード率いる冒険者たちで、異教徒はヤーパーの雑用をしてた程度です」
「ただ、今回は一線を越えてしまいましたね。各地の拠点は押さえてありますので、ギルドからも冒険者に拠点潰しの依頼を出そうと思ってます」
「規模だけは大きいからな」
いつの世でも、人生を嘆く者は存在する。
そのなかで、幸せになろうと努力をする者もいる。
一方で、他人も自分のように不幸になればいいと思う者もいる。
その究極が――魔王による、世界の破滅だ。
問題なのは、そのような者たちを悪意を持って利用しようとする者がいることだ。
ウィードしかり。ヤーパーしかり。
俺たちの敵は、魔王や魔族だけではないのかもしれない――。
「最後に訊きたい。俺たちはどうすればいいですか?」
俺の問いにメンザが答える。
「こちらから望むことはありません。強いて言えば、強くなって欲しい――それだけです」
なにか頼まれるかと思っていただけに、拍子抜けする。
「人間の仕出かすことは、人間で対処できます。ですが、魔王に対処できるのは、精霊術士――ラーズだけです」
「分かりました。一日も早く、五大ダンジョンを制覇してみせます」
「シンシアもお願いしますよ」
「はい、もちろんです」
「他には?」
殿下の問いに、シンシアと顔を見合わせ――。
「大丈夫です」
「では、これで解散しましょう」
これを合図に、皆が立ち上がろうとしたところで――。
「ラーズ、シンシア、少しつき合ってくれ」
ヴェントンに呼び止められた。
◇◆◇◆◇◆◇
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次回――『ヴェントンの告白』
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