第5章 風流洞第43階層

第189話 戦いの翌日

【前書き】


お待たせしました、第5章スタートです!

こちらもお待たせしましたが、書籍第1巻発売になります。

詳細は後書きで。


本日は3話更新。明日から第5章完結まで、18:30に毎日投稿です。


   ◇◆◇◆◇◆◇


 目を覚ますと、隣にはシンシアがいて、俺をジッと見つめていた。


「おはよう」

「ああ、おはよう。起きてたの?」

「寝顔を見てた」

「起こしてくれれば良かったのに」

「へへっ」


 シンシアにほっぺをツンツンされる。

 彼女の柔らかい笑みで、日常が戻って来たことに安堵する。


「今、何時?」

「もうお昼過ぎよ」


 その言葉に俺の腹がぐぅと鳴る。


「ふふっ。ご飯にする?」

「ああ、起きよう」


 いつもは裸で目覚めるのだが、昨日はそれどころではなかった。

 二人でパジャマに着替え、倒れ込むようにして眠りに落ちた。


「こっち見ないでね」


 今さら裸を隠すような仲ではないが、着替えを見られる方が恥ずかしいらしい。

 乙女心は複雑だ。

 彼女に背を向けて、俺も着替える。


「休日で良かったわね」

「そうでなくても、とてもダンジョンに潜る気にはなれないな」


 衣擦れの音に、彼女の声が混じる。

 それが俺を反応させた。

 上半身裸のまま、静かに歩み寄り、後ろから抱きしめる。


「きゃっ!」


 シンシアは驚いてみせるが、彼女も予想していたようだ。


「もう、ダメよ」


 振り向く彼女の唇を奪う。


「んんんっ」


 くぐもった声がさらに俺をたかぶらせる。

 俺は彼女の胸に両手を伸ばした――。


   ◇◆◇◆◇◆◇


 命を賭けた戦いの後。

 本能がそうさせるのか、欲求が激しく高まる。

 疲れ果てていた身体が、時間をおいて爆発した。

 それは俺もシンシアも同じだった。


 昨日を忘れるように、お互いを求め合った。

 いつもより激しく。いつもよりも深く。


 満たされた頃には、日が傾いていた。

 シンシアとキスをする。

 軽いキスだ。

 唇がチュッと鳴る。


「先に浴びなよ」

「ええ、お先に」


 順番でシャワーを浴びる。


 一緒に浴びると再開してしまいそうだから。

 シャワーを済ませ、着替えてさっぱりした。


「夕食にしようか」

「ガッツリ食べたいわね」

「賛成」


 料理を並べていくと、玄関のチャイムが鳴る。


「こんばんは~」


 ロッテさんがやって来た。


「お二人とも、しっかりと休めたようですね」

「昼まで寝てたよ」

「よく休んだわ」

「ふふふ。良かったですね」


 見透かすような視線を向けられる。


「ロッテさんも食べていきます?」

「ええ。そのつもりで来ました」

「あはは。正直ですね」

「ええ、気をつかって、この時間にしたのですから、それくらいの役得はないと」


 シンシアと二人で苦笑いする。

 俺たちのことはお見通しのようだ。


「うわあ、肉、肉、肉って感じですね」

「冒険者だからね」

「ロッテさんも好きでしたよね?」

「ええ、肉ならいくらでもいけます」


 多めに用意したけど、足りるかな……。


「大変だったようですね」

「ロッテさんも忙しかったんじゃない?」

「いえ、今回のはボウタイと治安部隊の案件なので、私たちはまったく関与していないんですよ。なにが起こったのかも、なんとなくしか聞いてません」


 確かにロッテさんの顔に疲れはない。

 目の隈もないし、やつれてもいない。

 元気満タンで、肉にかぶりついてる。


「それで、お二人に出頭願いが出ています」

「昨日の件?」


 それ以外に思い浮かばない。


「はい。強制ではありませんが、できれば事情聴取にご協力いただければと」

「もちろん。断る理由がないよ」


 俺としても、事件の全貌を知っておきたい。

 とくに、パズズ――魔王のしもべと言っていた魔族。

 邪教徒は魔王の復活を企んでいた。

 魔王封印が俺に課された役目。

 この先どうなるのか、知り得ることはすべて知っておきたい。


「では、明日。一〇時に迎えに参ります」

「了解」


 それだけ言い残して、ロッテさんは帰っていった。

 食事の後片付けを済ませ、コーヒーでひと段落いれる。


「明日も休み?」

「そうだね。何時に終わるか分からないし。ステフとメンザに連絡しておこう」

「任せたわ」

「あの件について、すり合わせしておこう――」


 昨晩は一緒に行動していたとはいえ、体験したこと感じたことは異なる。

 情報を交換し、明日の聴取でどう応じるかを決めていく。


「――まあ、こんなところかな」

「ええ、そうね」


 話が終わり、俺はシンシアに問いかける。


「足りた?」

「どっちのこと?」

「夕飯じゃない方」

「もうちょっと食べたいかな」

「明日、寝坊しないようにしないとね」


 俺とシンシアは腕を組んで、寝室に向かった。






   ◇◆◇◆◇◆◇


【後書き】



【6月30日発売】

 書籍第1巻、雨傘ゆん先生の素晴らしいイラストで発売されます。

 書籍版はweb版から大幅改稿、オリジナルバトル追加してますので、web読者の方でも楽しめるようになっています。

 2巻も出せるよう、お買い上げいただければ嬉しいです!



次回――『事情聴取(上)』

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