第180話 パズズ戦

 パズズはエルフに向かって――。


 余裕綽々しゃくしゃくで歩み寄る。

 俺なんか眼中にないと――舐め切った態度だ。


「させるか」

「邪魔だ」


 立ちふさがる俺に向かって、パズズは鬱陶しそうに腕を払う。

 その腕から黒い風の塊が放たれ――。


『――【風凝砲ウィンド・キャノン】』


 慌てて撃った風凝砲で相殺する。

 パズズがどれだけ本気だったかは分からないが、まったく戦えないということはなさそうだ。


 ただ、その顔を見る限り、まだ全力には程遠いようだ。背中を冷たい汗が伝う。


「ほう。まだまだヒヨッ子のくせに……」


 油断はしていなかったつもりだが、次の瞬間――数メートルの距離を詰めたパズズが眼前にいた。


「クッ!」


 殴りかかってきた腕にミスリルダガーを合わせる。

 なんて重たい攻撃だ。

 タイミングよく合わせたのだが、完全には軌道をそらしきれない。

 薄く切り裂かれた頬から血が垂れる。

 パズズはバックステップで俺から離れ、嗜虐的な笑みを浮かべる。


 連撃できた筈なのに、わざわざ攻撃を止めた。

 クソっ、遊ばれてるな。


「ラーズ、もう少し時間を稼いでくれ」とマレの声。

「ああ」


 抜かれるわけにはいかない。

 なんとかパズズの気は引けたようだし、ここは絶対に通さない。


「寝起きの遊びにはちょうどいいな」


 パズズはクイクイッと手招きする。

 あからさまな挑発だ。

 よし、乗ってやろう。


今度はこっちの番だ――。


  ――火は人と共に有り。


 ――ヒトは火と出会いて人とり。

 ――人の歩みは、火の歩み。

 ――人の有るところ、火もまた有り。


 ――人とは火を起こす者なり

 ――では、火とはなんぞ?


 ――は。


 ――暗きを見通す灯りであり。

 ――肌を暖める温もりであり。

 ――獣を追い払う守りである。


 ――けがれた水を清め。

 ――毒を殺し肉を与え。

 ――鉄を鍛え、道具と為す。


 ――火は壊し、そして、新たな命を生み出さん。


『――【電光石火イグニッション・ファイア】』


 周囲にいるすべての火精霊に呼びかける。

 火精霊は俺の身体に吸い込まれ、俺と一体化する。


 これが今の俺の最大戦力――火の試練で手に入れた力だ。

 魔力消費量が激しく、ダンジョン攻略では中々使う機会がない。

 だが、今こそ、最高の使いどころだ――。


 炎とひとつになった俺は感情を爆発させる。

 それと同時に、思考はクールに。

 感情に飲み込まれず、感情をコントロール。


 これが精霊術使いの戦い方だ――。


 俺はパズズに向かってダッシュ――ガチンコの殴り合いが始まった。


 まずは俺の先制攻撃。

 炎をまとった拳で顔を殴りつける。

 パズズは反応したが、ワンテンポ遅い。


 ――ガンッ。


 鉄壁を殴りつけたような感覚。

 多少ダメージは通ったようだが、パズズは揺るがない。

 それに――黒いモヤが傷をすぐに修復する。


 俺は続けて拳を放とうとするが、パズズの方が先だった。

 パズズの重いパンチ。だが、その軌道は単純。

 牽制も策もなし。ただ、俺の頭を狙ったまっすぐな直線。


 それなら、造作もない。

 炎とひとつになった今の俺ならば――。


 ――ドンッ。

 ――ガンッ。


 パズズの腕をはねのけ、反対の拳で殴りつける。


 今の一合で分かった。

 コイツはさっき戦ったバルサク冒険者と一緒だ。

 スペックは高いが、戦闘技術は皆無。

 力任せの攻撃だけだ。


 防御力は高く、謎の黒モヤで回復するが――それだけだ。

 倒れるまでぶん殴り続ければ良い。

 カヴァレラ道場仕込みの体術をたっぷりと味わいやがれ。


 直撃すれば大ダメージの攻撃でも、当たらなければどうということはない。

 パズズの攻撃をすべて読み切り、殴る、蹴る。


「チッ。鬱陶しい羽虫だ」


 一歩も引かない俺に焦れたパズズは、殴り合いを中断し大きくバックステップ。

 すぐに黒モヤが現れ、傷をふさぐ。

 それなりのダメージは与えたつもりだったんだけどなあ……。


 また、振り出しだが、それがどうした。

 無限に回復しそうな敵くらい、こっちは今までも散々倒してきたんだ。


 俺は追撃しようとして――嫌な予感を感じた。

 慌ててストップ。なにが来るか分からないが、対応できるように体勢を整える。


 パズズは背中の翼を広げ、軽く羽ばたかせる。

 翼から赤黒い風が放たれた――。







   ◇◆◇◆◇◆◇


次回――『パズズ戦2』



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