第181話 パズズ戦2

 パズズは背中の翼を広げ、軽く羽ばたかせる。

 翼から赤黒い風が放たれる――。


 赤黒い風はひと塊となって、俺に向かって飛んでくる。


『――【火弾単射】』


 それに合わせて火弾を放つ。

 これは本来、サラのスキルだ。

 普段は使えないが、火精霊と一体化している間は俺も使えるのだ。

 その代償として、他の精霊は行使できないが。


 火弾と赤黒い風は真正面からぶつかり合う。


「クソッ!」


 パズズの攻撃の方が上だった。

 火弾を打ち破り、赤黒い風が俺を襲う。


 赤いのは高熱だからだ。火と一体化している俺には、なんのダメージもない。

 一方、黒いのは――。


「これはっ――」


 俺を包む火精霊が黒く侵食されていき、炎の揺らめきが小さく、弱くなる。


「デバフかっ!」


 ダメージはないが、厄介な攻撃だ。

 他の対処法を考えるが、今の俺には不利と分かっていても火弾でやり合うしかない。


『――【火弾連射】』


 パズズが翼を動かすたびに放たれる赤黒い風。

 俺も負けじと火弾を撃ちまくる。


 だがやはり、分が悪かった。

 立て続けに二発、三発と喰らい、火精霊はどんどん弱体化する。


 ――ヤバいっ、これ以上は。


 俺自身が受けたら、どんなデバフ効果なのか分からない。

 だが、俺は受けるしかなかった。


 なぜなら――俺の背後では今もマレがエルフを介抱している最中だからだ。


 火精霊はついに力を無くし、俺から離れてく。

 丸腰の俺は、それでも、立ち向かうしかない。


 ここだとばかり、パズズは大きく翼をはためかせ――。


「ラーズ、任せろ」

「ステフ!」


 ステフが横から飛び込んで来た。

 巨大なカイトシールドを構え、俺の前に立ちふさがる。


『――【逆射盾インバース・イメージ】』


 赤黒い風が到達する直前、ギリギリのタイミングでステフの盾スキルが発動した。

 風はカイトシールドを包み込むが――すぐに消え去った。


 俺はそれを確認すると、すぐに飛び出し――パズズを強襲する。

 風を放ったばかりのパズズは隙だらけだ。


 俺はその懐に潜り込み――。


『――【風凝砲ウィンド・キャノン】』


 ゼロ距離から撃った風凝砲が土手っ腹にめり込む。

 さすがの威力だったようで、パズズは数メートル吹き飛んだ。


 俺はステフを確認する。

 デバフ攻撃を無効化する防御スキルだ。

 盾にもステフにも影響はなさそうだ。

 さすがは本職の防御ジョブ【盾闘士】。


 俺の精霊術では防ぐ手がなかった。

 万能に思える精霊術でも、まだまだ出来ないことは多い。

 でも、それでいい。

 俺にはそれを補ってくれる仲間がいるのだから。


 ステフは振り返り、笑顔を見せる。

 その視線は俺ではなく――。


「マレちゃん、大丈夫?」

「ああ、助かった」


 最高の笑顔を見せたステフは視線をずらし、驚きに目を見開く。

 そして、すぐに獲物を見つけたハンターの目になる。


「なあ、マレちゃん。その美しい女性は?」


 ステフの視線はエルフ女性に釘付けだ。


「そちらの状況は?」


 ステフの問いは無視して、マレは尋ね返す。

 気のせいか、どこかトゲトゲしい感じだ。

 戦闘中なのに、平常運転なステフに腹を立てたのだろうか。


「ああ、すまない。黒ローブたちは全員無力化したよ。今はシンシアが子どもたちを回復しているが、あのケーブルをどうしたらいいか分からないんだ」

「こっちもなんとかなった。ここは任せられるか?」

「マレちゃんに頼まれたら、死ぬ気にならないとな」


 女性に頼まれ、女性を守る。

 ステフとしてはこれ以上ないモチベーションだろう。


「任せてくれ。美しい女性を傷つけさせたりは――絶対にしないっ!」


 その横顔は凛々しいのだが、その口元に漂う雑念は隠しきれていない。

 口を開いたらヨダレが垂れてきそうだ。


 マレはプイと視線をそらすと、エルフ女性を横たわらせ、俺のところへ来る。


「ラーズ、使ってくれ」


 差し出されたのは、ひと振りの剣。


「これは?」

精霊剣エレメントソードだ。あいつにはこれが効くかもしれない」

「分かった」


 マレは俺に剣を手渡すと、フロアに向かった。

 ステフはその後姿を熱のこもった視線で見送り、カイトシールドの尖った先端を地面に突き刺す。


『――【不動盾フィックスド・ポイント】』


 ステフ最強の防御スキルだ。

 発動中はその場から動けないが、その間の防御力はとてつもない。


 絶壁のステフ――その二つ名の通り、そり立つ高い崖となってエルフ女性を守ってくれることだろう。

 まあ、もうひとつの意味を知ってしまった今となっては、決して彼女の前では口にできない二つ名だ。


 ともあれ、今はパズズだ。

 倒れていたパズズがムクリと起き上がった。







   ◇◆◇◆◇◆◇


次回――『パズズ戦3』

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