第178話 本拠地突入2
「チッ、なんでいつも僕のジャマをするんだよぉ~~」
狂気を宿した目でヤーパーが叫ぶ。
腕を振り回し、唾を飛ばす。
まるで癇癪を起こした子どもだ。
「この煙はマズい。ラーズ、なんとかできないか?」
「ああ、やってみる」
部屋の中では香が焚かれ、もうもうと煙が立ち込めている。
なんかしらの禁薬だろう。囚われている子どもたちはうつろな目をしている。
俺は風精霊に語りかける――。
『風の精霊よ、汚された気を浄化せよ――【清浄気(フレッシュ・エア)】』
風精霊たちが一斉に部屋中に散らばり、室内の空気を撹拌する。
毒素を分離して、かき集め、部屋の外へ排出する。
淀んでいた空気が一掃され、澄み渡った空気に入れ替わる。
「なっ、なんなんだよ~。お前たち、いい加減にしろよぉ!」
ヤーパーが怒りのあまり、ボサボサの頭をかきむしる。
当初の目的は忘れてしまったようで、持っていたナイフは手放していた。
これほど大規模で入念な陰謀を企てた男だから、さぞや冷徹な合理主義者かと思っていたが……。
あれは狂人だ。超えてはいけない一線を超えてしまった狂人だ。
一方、フロアでは黒ローブの男たちが動揺している。
「奴らは?」
「魔族復活を試みる邪教徒。今回の黒幕だ」
「リーダーは生かしたまま捕らえたい」
「分かった」
動揺からいち早く立ち直ったリーダーの男が部下に命じる。
「チッ。邪魔が入った。すぐに起動させろ!」
部下の黒ローブの男たちが慌ただしく動き始めた。
「マズいっ!」
マレが男たちに向かってナイフを投げようとして――。
「クソっ!」
男たちはぐったりとした子どもを抱え上げる。
子どもを盾にするつもりだ。
マレはナイフを引っ込める。
俺も子どもたちを巻き込まずに精霊魔法を使えない。
シンシアとステフも同様だ。
奴らを倒すには、接近戦しかないだろう。
俺たちが手を出せないうちに、男たちは作業を進めていく。
祭壇にはエルフ女性が横たわっている。
その女性の胸と祭壇は細いケーブルで繋がれている。
祭壇からその他にもう一本、太いケーブルがフロアに向かって伸びていて、その先は無数に枝分かれし、捕らえられた人々の胸に繋がれている。
邪教徒たちがなにをしようとしているのか、俺には分からない。
「マレ、指示を」
まだ現状を掴みきれていない俺には、優先順位が分からない。
「あの太いケーブルを切断したかったのだが、一足遅かったか」
マレはわずかに眉をひそめる。
「あのケーブルは傷つけないでくれ。子どもたちになにが起こるかわからない」
「ああ」
「シンシアとステフは邪教徒を無力化して、捕らえられた子どもたちを回復」
「了解!」「わかった」
二人は一目散に駆け出す。
メイスを。スティレットを。
握りしめる手には力が入っている。
「ラーズはついて来て」
「分かった」
走り出したマレを追いかける。
「起動成功です」
部下の声と同時に、人々に繋がれたケーブルが淡く光り始める。
禍々しい黒い光だ。
光の粒はケーブルを伝って祭壇へと向かう――。
「ああ、もう、間に合わなかったじゃないかぁ」
怒りに顔をゆがめるヤーパーはエルフ女性の胸からケーブルを引っこ抜く。
その尖った先端は、赤く血に染まっていた。
「なッ! 貴様ッ! 止めろッ!」
リーダーの男が叫ぶ。
「もういいや。どうせ助からないなら、やっちゃえ」
なにを考えてか、ヤーパーは手に掴んだケーブルを自分の胸に突き刺した。
光の粒がケーブルを伝わって祭壇に、そして、ヤーパーの胸へと流れ込んでいく。
「ははははははっ! 僕は生まれ変わったぞッ!」
ヤーパーの高笑いが響く。
その身体が黒い光に包まれていった――。
◇◆◇◆◇◆◇
【後書き】
なろうに追いつきました。
ストック貯めるため、しばらく3日ごと(同時刻)の投稿になりますm(_ _)m
次回――『本拠地突入3』
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