第177話 本拠地突入1

 俺を先頭に、シンシア、ステフ、マレが続く。

 四人は階段を降りていく。

 階段を降りきった先には扉が閉まっていて、その先を守るように冒険者風の男が二人立っている。

 ヤツらに気づかれる前に――。


 俺の【風斬ウィンド・カッター】が一人の首を斬り落とし。

 マレの投げナイフが、もう一人の眉間に突き刺さる。


「私が行く」


 絶命した男からナイフを引き抜き、マレは扉に近づく。

 間違いなくマレは斥候職だ。ここは彼女に任せるべきだ。


「シンシア、ステフ。落ち着け――」


 さすがはボウタイの一員。マレは平静を保ち、心の揺れを表に出していない。

 それに対し二人とも鬼の形相で、今にも飛び出しかねない勢いだ。


「ここから先は暴れればいいというわけにはいかない」


 二人に告げる。


「大勢の子どもたちが囚われている。非道な仕打ちを受けているかもしれない。それでも、心を乱すな」


『水の精霊よ、シンシアとステフの心を鎮めよ――【鎮静の水カーム・ウォーター】』


「俺たちが最優先すべきは、囚われている者を一人でも多く救うこと。敵を倒すのは二の次だ」

「ええ、わかったわ。ありがとう。落ち着いた」


 シンシアはメイスを下げ、握る力を緩める。


「私もカッとしていた。すまない」


 ステフも深呼吸して、落ち着きを取り戻した。


「こっちに来てくれ」


 マレが手招きする。

 扉には小さな穴が開けられていた。

 重く厚い石扉の様だが、きっとマレの短剣スキルだろう。

 マレは穴から中を探りながら、つぶやいた。


「あの男は……やっぱり」


 マレが顔をしかめる。

 そして、俺に向かって「見ろ。白衣の男だ」と手で合図する。

 奥の一段高くなった場所に、その男が見えた。


「知ってるのか?」

「ああ。名前はヤーパー、狂った研究者だ。非合法な人体実験を繰り返し、百人以上を残酷な方法で殺した。逮捕の直前で姿をくらましたのだ。それがこんなところに……」


 マレの瞳が揺れる。


「だが、これでようやく、ヤツらの計画の全貌がつかめた。一人も残さず、捕まえる」


 ギリッと奥歯を噛む音が聞こえる。

 彼女もなんらかの因縁を抱えているのだろう。

 それでも冷静さを失っていないのは、さすがはボウタイと言ったところか。


「捕らえられた人たちが大勢いる。救助は私にしかできない。ラーズたちは突入したら、ヤーパーを無力化してくれ。いろいろ吐かせたいから、できれば生きたままでお願いする」

「ああ、わかった。任せろ」

「3つ数えて突入するよ」


 3。

 2。

 1。


「行くよっ!」


 マレが扉を押し開け、俺たちも後に続く――。


「「「なっ!?」」」


 穴から覗いたときはよく見えなかったが、広いフロアには百人以上――その大部分が子どもだ。

 皆、鎖に繋がれうつろな状態だ。


「こんなに大勢……」

「許さん……」


 他にも黒いローブ姿の者たちが十数人。

 マレはソイツらに目もくれず、ヤーパー目がけてナイフを投擲する。

 ヤーパーは一段高くなった祭壇のような場所にいる。


 しかし、目に見えない障壁に阻まれ、ナイフはヤーパーには届かない。

 魔法か、魔道具か……。


 そのヤーパーは横たわるエルフ女性に向かって、大振りなナイフを振り下ろそうとして――。


『――【風凝砲ウィンド・キャノン】』


 反射的に打ち出した圧縮された空気が障壁を揺るがす。

 障壁は耐えられなかったようで、音を立てて砕け散る。

 ヤーパーまでは届かなかったが、驚いて動きを止めさせるのには成功した。


「チッ、なんでいつも僕のジャマをするんだよぉ~~」


 癇癪を起こした子どものように甲高い声でヤーパーが叫ぶ。

 その目には狂気が宿っており、まともな人間ではないと、ひと目でわかった。







   ◇◆◇◆◇◆◇


次回――『本拠地突入2』

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