第174話 賊との戦闘7:ヴェントン対ウィード2

 ヴェントンの猛攻が始まった。

 ウィードはその攻撃を曲剣ではすべては受けきれず、鎧で防がざるを得なかった。

 オリハルコンの鎧は硬く強い。

 それでも、ヴェントンの剣は少しずつ、少しずつ、ダメージを蓄積させていく。


「お前の地力で俺に勝てるとでも?」


 『最果てへ』の頃はヴェントンの方が強かった。

 今の切り結びでも、明らかにヴェントンが有利に運んでいる。

 ウィードは防戦一方だ。


 ヴェントンの挑発に、ウィードは笑顔で応える。

 そして、反撃に出た。


「まさか、これが本気だと思ったか?」


 曲剣の絶妙な軌道は直剣を避け、ヴェントンの胴に叩き込まれる。


 パリンと弾ける音――。


 ヴェントンの鎧は竜の鱗でできている。

 軽く丈夫だが、オリハルコンほどの強度はない。

 その鱗のひとつが今の攻撃で砕けた。


「あの頃のままだと思ったか?」

「…………」


 再度、ウィードが剣を振るう。

 ヴェントンは直剣で受けるが、その威力に押された。

 二歩、三歩。後退してなんとか踏みとどまる。


「お前がチンケな小悪党を捕まえてる間、俺は貴様を殺すためにできることは全部やってきた」


 ウィードの連撃が続く。

 ヴェントンは凌ぐだけで精一杯。

 それも十分ではなく、鎧の鱗が割れていく。


 ――確かにウィードの言う通りだ。


 ヴェントンは彼我の実力差を悟る。

 自分も十分に鍛えてきたつもりだが、それは仕事の合間を縫ってだ。

 ウィードのように復讐のためにすべてを捧げられたわけではない。

 それに――。


 ――できることは全部やってきた。


 その「できること」には、違法薬物や禁呪も含まれるのだろう。


 互いの剣が交差して鍔迫り合いになるが、力でもウィードが押している。


 残念だが、このままでは勝つことはできない。

 そう悟ると同時に、ヴェントンは覚悟を决めた。


 ちらりとマレに視線を向ける。

 そして、ラーズにも。


 それから、ウィードに挑発の言葉をかける。


「最愛の人を守れなかったお前になにができる?」

「貴様ッ!」


 ウィードが絶対に許せない発言だ。

 狙い通り、ウィードは激昂すし、力任せに剣を振り回す。

 乱暴な攻撃だが、力で勝るウィードにヴェントンの剣は振り回される。


 そして、ついに――ヴェントンの剣が手を離れ、弾き飛ばされた。


「あっ……」


 しまったと、ヴェントンの視線が離れ行く剣を追う。

 その隙を見逃すウィードではなかった。


「死ねッ!」


 醜く歪んだ笑みがヴェントンに襲いかかる。

 胸に突き立てられる曲剣。

 弱っていた鎧は侵入を拒めない。

 ずぶりと貫かれた剣がヴェントンの背中から飛び出る。

 ウィードは剣を捻り、傷口を抉る。

 ヴェントンの口から泡立った血の塊がごぼりと吹き出る。


「ふっ、あっけなかったな」


 暗い笑顔を浮かべるウィード。

 ヴェントンは最後の力を振り絞り、両腕をウィードの背中に回し、がっしりと抱きしめる。

 その手には赤い珠が握られていた。


「なっ!? どういうつもりだッ!?」


 問い詰めるウィード。

 今度はヴェントンが笑みを浮かべる。


「強くはなったかもしれんが、根本は変わっていなかったようだな」

「なんだとッ!」

「お前は詰めが甘い」


 その瞬間、ウィードの脳裏にあの場面がよぎる。

 何度も悪夢にうなされたあの場面が。


 氷の迷宮。

 アイス・マジシャンを倒せると油断した場面。

 自分の判断ミスで最愛の人を失ったあのとき。


 ――歯車がずれてしまったあの瞬間。


「これで終わりだ。ようやく『最果てへ』を終わらせられる」

「やっ、ヤメろッ!」

「地獄までつき合ってやる。それが、リーダーである俺の務めだ」


 マレ、ラーズ。

 後は任せたぞ。


 ヴェントンの手の中で赤い珠が爆ぜ、二人を猛火が包み込んだ――。


   ◇◆◇◆◇◆◇


次回――『賊との戦闘を終えて』

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