第173話 賊との戦闘6:ヴェントン対ウィード1

 ヴェントンとウィードはともに剣を構えて向かい合う。

 お互い、長年の因縁にケリをつけるために。


 二人同時に斬りかかる。

 ヴェントンの直剣とウィードの曲剣。


 オリハルコン製の剣と剣が激しくぶつかり、黄色い火花が散る。

 二人は鍔迫り合いをしながら、お互いの目を睨みつける。


「どうして、すぐに殺しに来なかった? 自信がなかったのか?」

「貴様を殺したら、終わってしまいそうだったからだ」

「終わる?」

「ああ、貴様を殺したら、そこで満足してしまいそうだった」

「俺を殺してもまだ足りないのか?」

「ああ、貴様の命だけでは、リードリッヒが納得してくれない」

「なにを求める?」

「俺の復讐は、貴様では終わらない。復讐対象は貴様だけではない。冒険者、ギルド、ダンジョン。すべてを根絶やしにするまで終わらない」

「それはお前の望みか? それとも、彼女(リードリッヒ)の望みか?」

「ダンジョンがある限り、次のリードリッヒはいなくならない。リードリッヒは優しかった。彼女は自分と同じ被害者を出したくないんだよ。それが彼女の望みだ」

「それが目的か? 矛盾しているぞ?」

「矛盾? 知ったことか」


 ウィードの瞳からは歪んだ狂気が伝わってくる。

 あの日にウィードは壊れてしまった。


 執念――それだけが彼を突き動かしてきたのだ。


「ようやく、ようやく、準備が整った。十年以上だ。貴様を殺したい衝動を必死に抑え、貴様たちの目をかいくぐり、やっとここまでたどり着いた」

「無駄な準備だったな。お前の狙いは俺が阻止する」

「フンッ。もう手遅れだ。今さら、間に合わん。まずは、手始めに貴様を殺すッ」


 ウィードは曲剣を強く押し、一度引いてから斬りつける。

 ヴェントンはそれを払い、斬り返す。


 そこからは激しい打ち合いだった――。


 二人とも、冒険者を引退して十数年がたっているとは思えない戦いぶりだった。

 それもそのはず、両者とも定期的にダンジョンに潜り、鍛え続けて来たからだ。


 ヴェントンはサード・ダンジョン『巨石塔』に。

 ウィードは辺境の打ち捨てられたダンジョンに。


 ――ともに、この日のためだ。


「腕は落ちていないようだな」

「貴様もな。いままで何人殺した?」

「さあ、数えていないな」


 ウィードの剣は血塗られた剣。

 罪のない人々を切り捨てた剣。


 ヴェントンの心に怒りが浮かぶ。

 ウィードに対する怒りとともに、自分自身への怒りでもあった。


 怒りを剣に乗せる。

 怒りに呑み込まれるのではなく、怒りをバネにする。

 鋭い連撃にウィードは防戦に回るしかなかった。


 ヴェントンが押す。

 その剣はウィードの鎧を削っていく。


「お前は飲まなくていいのか?」


 連撃の合間に問いかける。

 他の賊たちとは違い、ウィードはバルサクを口にしていない。


「アレは特製でな。通常の何倍も効果は強いが、その代償もそれに見合ったものだ」


 特製バルサクの代償――それは命だ。


 短時間、爆発的な能力を得る代わり、その効果が切れたときに待っているのは死だ。

 それを知っているのはウィードと、バルサクを改良したヤーパーのみ。

 他の賊たちはそれを知らされていない。

 ウィードにとって仲間の男たちは使い捨ての駒に過ぎなかった。


 それを聞いたヴェントンの怒りが燃え上がる。

 ボス級のモンスターでも怯えるほどの猛攻が始まった。


   ◇◆◇◆◇◆◇


次回――『賊との戦闘7:ヴェントン対ウィード2』

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