第172話 賊との戦闘5:ステフとマレ2
賊に押されているステフとマレ。
実力で劣る相手に防戦一方で、二人の中に焦りが生まれ、それはどんどんと大きくなる。
そのような状況でステフはマレに話しかける。
「マレちゃん」
ちゃん付けで呼ばれたマレはピクリと眉尻を動かすだけ。
返事はなかった。
ステフが繰り返す。
「ねえ、マレちゃん」
「なに、その呼び方。私の方が年上ですよ」
「仕方がないじゃないか。マレちゃんというのが、一番しっくりきたんだ」
「意味がわかりません」
「だって、可愛いじゃないか。その名前も戦う姿もカワイ過ぎる。そんなマレちゃんには『ちゃん付け』以外に考えられないんだ」
「名前も姿も仮初のものです」
「ああ、もちろん知っているさ。だが、その魂の高貴さは偽装くらいでは隠し切れない。私の前ではそんなものは意味がない。だから、再度呼ぼう。マレちゃんと」
「…………」
「マレちゃん?」
二人とも、視線はかわさない。
目の前の敵に向けられたままだ。
会話しながらも、敵の攻撃に対処していく。
だが、それでも、少しずつ不利が積み重なっていく。
「用件は?」
「共闘しようじゃないか、マレちゃん」
「呼び方は気に入りませんが、そのアイディアには同意します」
「ああ、カワイイ貴女を守れるなら、私はどこまでも強くなれるっ!」
ステフはほんのりと頬を赤く染め、戦闘中だというのに、その顔からは欲望が漏れ出ていた。
マレはその顔をちらりと眺め、脳裏に一瞬、過去が蘇る。
――昔は、私も可愛いって言われていましたね。
だが、マレはその思いをすぐに振り払う。
視線を巡らせ、戦局を把握する。
「行きますよっ!」
「ああ、貴女は私が守る。好きに暴れてくれっ!」
二対三の戦いが始まった――。
戦いの流れが一気に逆転する。
今度はステフたちのターンだ。
ステフが敵を引きつけ、その間にマレが剣士に斬りかかる。
厄介な槍使いは後回し。
まずは剣士から。
言葉はなくとも、二人とも同じ考えに同意していた。
『――【対角受流(ダイアゴナル・パリィ)】』
ステフが敵の剣を、槍を、巧みに受け流す。
そして、マレが剣士の懐に飛び込む。
咄嗟に組んだコンビではあったが、その呼吸はぴったりと咬み合っていた。
ステフはパーティーよりもソロでの戦いを好む。
先日も、風流洞ラスボスであるイヴィル・トレント・ロードを――ラーズのバフ付きとは言え――ソロで打ち倒したほどだ。
だが、ステフが本領を発揮するのは女の子を守るときだ。
そのときこそ、ステフは――絶壁となる。
さっきまでは二人相手でも押されていた。
しかし、今は、三人が相手でも怯まない。
敵の攻撃を受けきって、マレの攻撃機会を作り出す。
マレはステフの顔を視界の片隅でとらえる。
その横顔は頼もしく、誰よりも輝いて見えた。
――とくん。
マレの心臓がひとつ大きく鳴る。
今まで感じたことがない感情が芽生えた。
不思議な感情にマレは戸惑う。
――でも、今は殲滅が先ですね。
新たな感情に名前をつけるより早く、マレは敵に迫る。
身体が軽かった。敵の動きも遅く見える。
いきなり、自分がワンランク上にあがったような感覚。
自分でも理由はわからない。
でも、考えるのではなく、受け入れた。
受け入れて、身体をその流れに任せる。
両手に持った二本の短剣。
絶え間なく連撃を叩き込む。
攻撃は途切れない。
次になにをすればいいか、身体が知っていた。
そこからは一方的な戦いだった。
二人は今までの苦戦が嘘であるかのように、三人の男を容易く倒した。
◇◆◇◆◇◆◇
次回――『賊との戦闘6:ヴェントン対ウィード1』
◇◆◇◆◇◆◇
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この度、別作品である『貸した魔力は【リボ払い】で強制徴収』が第10回ネット小説大賞を受賞して、コミカライズされることになりました。
こちらも自信作ですので、ぜひお読み下さい!
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