第171話 賊との戦闘4:ステフとマレ1

 ラーズたちが賊と向きあう中、ステフとマレも賊と対峙していた。

 マレの相手は槍使い。

 ステフは二人――ともに剣士だった。


「さあ、かかってこい。ゲスめ」


 ステフは怒っていた。

 彼女にとって幼女とは優しく愛でる崇高なもの。


 話すときは囀(さえず)る小鳥をいたわるように。

 触れるときは百合の花弁を挟むようにそっと優しく。


 賊に拐かされ、涙に濡れた幼女を見て、賊への怒りはかつてないほどだった。


 だが、怒りの最中にあっても、冷静さは失わない。

 いますぐ、スティレットで串刺しにしてやりたいところだが、グッと堪える。


 ステフがやるべきは――他の誰かが賊を倒すまで耐えること。

 自分の役目は決して忘れていなかった。


 ステフは二人の剣士に挑発の言葉を投げかけ、カイトシールドを前に構える。

 剣士は赤く濁った目に嗜虐の色を浮かばせた。


「男嫌いのステフか」

「その綺麗な顔を切り刻んでやるよ」

「ダルマにして犯してやろう」

「そりゃいいな」


 二人は左右から同時に斬りかかってきた。

 ステフもすぐに動く。

 左側に回りこみ、片方との男との距離を詰めた。


 振りかぶった剣が振り下ろされる前に、盾ごと男にぶつかる。

 男がよろける間に、もう一人の方へ向き直り、剣撃を盾で受け止めた。


「ふんっ。そんなものか」


 ステフはさらに挑発する。


「死ねッ!」

「殺すッ!」


 バルサクの作用で興奮状態の男たちは、いとも簡単に激高した。

 二人は斬りかかってくるが、ステフは巧みな立ち回りで同時攻撃をさせない。


『――【対角受流(ダイアゴナル・パリィ)】』


 スキルで剣を受け流し、受け止め、弾く。

 もともと連携の取れてない二人相手に、ステフはしっかりと対応できた。


 複数を相手取るときになによりも大切なのは、すべての敵の動きを把握することだ。

 意識の外からの攻撃はどうしても対応が遅れる。

 視認なり、魔力の流れなり、何らかの方法で相手を捕捉し続けねばならない。


 ステフの場合、頼りになるのは視覚のみ。

 常に敵を視界に入れておく必要がある。


 ソロでダンジョンに潜っていたステフは、多対一の戦いに慣れている。

 二人を相手取っても、上手い位置取りによって敵を視界から外さない。


 技量と戦闘センスでは、ステフは賊を圧倒していた。

 だが――。


 男たちはバルサクによって、通常以上の筋力を得ていた。

 身体に大きな負担をかける力だが、今はその痛みも感じない。

 刹那的な暴力にステフは少しずつ押され始めていった――。


 一方その頃――。


 マレは苦戦していた。

 彼女の武器は二本の短刀。

 俊敏さで敵を翻弄し、ダメージを積み重ねていくのが、彼女の戦闘スタイルだ。


 それに対し――相手は槍使い。

 長いリーチで牽制し、マレを懐に入れさせない。


 マレにとっては格下の相手だったが、バルサクが厄介だった。

 力任せの乱暴な槍さばきだったが、底上げされたそれはマレの接近を許さない。


 一歩前に出れば、槍がひと突き。

 一歩下がれば、追い打ち。


 マレが素早いステップで撹乱しようとも、槍使いの男にはそれがゆっくりと歩いているように見えた。


 男は余裕だった。

 だが、ひと思いに楽にするつもりはない。

 とことんまでいたぶり尽すつもりだった。


 槍がマレをかすめる。

 肌が薄く裂け、鮮血が飛ぶ。

 そのたびに男は顔に愉悦を浮かべる。


 なかなか近づけず、押されている状況にマレは焦れていた。


   ◇◆◇◆◇◆◇


次回――『賊との戦闘5:ステフとマレ2』


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る