第141話 風流洞攻略11日目:風の精霊王

 ――風流洞攻略を始めて11日目の午後3時過ぎ。


 昨日今日と第42階層でレベリングを続けてきた。

 ガーディアンとセンチネルを狩りまくったおかげで、またレベルが上がった。

 具体的には――。


 ラーズ :291→300

 シンシア:291→300

 ステフ :225→256

 メンザ :363→364


 俺とシンシアはついに300の大台に乗った。

 【3つ星】並みのレベルだ。

 追放されてから100近くと驚異的な上昇だ。


 ステフも出会ってから50もレベルアップしている。

 本人はいまだに信じ切れずにいるが、間違いなく強くなった。

 もともとのセンスの良さもあるが、オーラ・レセプターを使用したステフの防御は、この階層相手ならの守りだ。

 言ったら怒られそうだから、本人には言わないけど……。


 対して、メンザの伸びは緩やかだ。

 さすが、このレベルだとなかなか上がらないらしい。


 俺とシンシアのレベルも上がりにくくなってきたし、そろそろワンランク上の敵を相手にした方がいい頃合いだろう。


 だが、その前に――。


「残るはあの部屋だけだ。今から行くか、明後日行くか。どうしたい?」


 この階層はほぼ攻略し尽くして、残るは扉に阻まれるひと部屋だけだ。

 部屋の中には間違いなく強敵が待ち構えているだろう。


「私は行けるわ」とシンシア。

「いくー!」とサラ。

「私もまだ余裕だぞ」とステフ。

「今でも大丈夫でしょう」とメンザ。


 今日も長時間狩りを続けたが、すでに楽勝レベルになっており、単純作業に過ぎなかった。

 肉体的には、シンシアの回復魔法でほぼ疲れはない。

 精神的にも、まだまだ余裕が見られる。


「よし、じゃあ、行こうか」

「おー!」

「「「おー!」」」


 サラの掛け声に三つの声が重なる。

 シンシアとステフは分かるけど、メンザがこんなノリがいいキャラだとは、予想外だった。

 まあ、仲がいいにはこしたことがないだろう。


 俺たちは例の部屋の前まで移動する。

 大きな両開きの扉は閉ざされ、中からはモンスターの気配がここまで伝わってくる。


「最終確認だ。この部屋では転移石が使えない。きっと、扉も閉ざされ、戦闘中の離脱はできないだろう。細心の注意を払って戦おう。作戦はさっき伝えた通りだ。いいか?」


 俺の言葉にみんなが頷く。


「じゃあ、開けるぞ」


 俺は扉に手をかける。

 皆は臨戦態勢に切り替える。


 おれが両手で扉を押し開けると――。


   ◇◆◇◆◇◆◇


 気がついたら、例の白い空間にいた。


「なっ、なにが起こったんだっ!?」


 ステフの驚いた声が聞こえる。

 周りを見ると、そこにいたのはステフとシンシア。

 メンザとサラはいないようだ。


 見覚えのある空間。

 ここはきっと――。


「はじめまして。精霊の使い手とそのお仲間のみなさん――」


 突如、目の前に姿を表したのは、緑色の髪に薄緑の透けそうな羽衣を身につけた女性。

 人間とは異なる気配。

 彼女は――。


「私は風の精霊王です」


 予想の通り、風の精霊王様だ。

 火の精霊王様は男性だったが、風の精霊王様は女性だった。


 俺は三度目だし、シンシアも二度目なので、驚いていない。

 だが、初めての体験になるステフは目を大きく見開き言葉を失っている。

 精霊王様という崇高な存在を前にして、さすがのステフも驚きを隠せないようだ……と思っていたら――。


「なっ、なんて美しい。結婚して下さいっ!」


 ステフはやっぱりステフだった。

 ここまでいくと、ある意味尊敬する。


「あらあら、嬉しい申し出ね」


 風の精霊王様は動じる様子もない。


「でも、風は気まぐれ。あなたに捕まえられるかしら?」

「もちろんだっ!」


 ステフは言うなり、精霊王様に飛びつき――。

 精霊王様はまさに風のように、ステフの両腕をスルッと抜ける。


「ふふふっ。私はここよ」

「なんのこれしきっ」


 その後も二度、三度と飛びつくが、精霊王様は遊んでいるかのように、華麗にすり抜ける。


「もっと強くならないと、私は捕まえられないわよ」


 余裕の笑みで中に浮かんでいる。


「くっ。でも、私は諦めない。いつか必ず貴女をこの手で捕まえてみせる」

「ふふふっ。楽しみにしているわ」

「ああ、待っていてくれ」


 よく分からない決意をした後、ステフはシンシアの方を向く。


「シンシア嬢。申し訳ないが、私は真の愛を知ってしまった。これまでの誘いはすべて忘れてくれ」

「えっ、うん……」


 シンシアはちっとも申し訳ないと思っていないだろう。

 それどころか、しつこい誘いがなくなって嬉しそうだ。


「戯れはこれくらいにしておきましょう。精霊の使い手ラーズ、よくここまで来ました」

「いえ、お目にかかれて光栄です」

「本来なら、風流洞最上階で待っている予定なのですが、少しばかり状況が逼迫しているのです」

「それはいったい?」

「邪悪な存在が迫っています。一週間後か、二週間後か。正確な日時は分かりませんが、世界樹に危機が訪れるでしょう」


 世界樹に危機が。

 なにが起こるんだろうか。


「ええ。ですので、一刻も早く最上階までたどり着いて欲しいのです。最上階にたどり着き、世界樹を危機から救うこと――それが風の試練です」

「風の試練……わかりました」


 きっちりレベリングをして、マージンをたっぷり確保しつつ攻略していくつもりだったが、どうやら、そういうわけにも行かないようだ。


「その危機というのは?」

「はっきりとしたことは言えませんが、魔王の眷属が関係しています」

「魔王の眷属!!」


 俺の最終目標は魔王討伐だが、それは五大ダンジョン制覇後の話だと思っていた。

 思っていたより、向こうの動きは早かったようだ。


「下界でも怪しい動きが見られます。きっとそれも関係しているでしょう」


 ――怪しい動き。


 以前聞いたツヴィーの街で暗躍している非合法組織。

 禁薬作りに人攫い。

 魔王に関連しているんだろうか。


「あなたとお仲間たちなら、きっと邪(よこしま)な者を退けてくれることでしょう。期待していますよ」

「ひとつお聞きしてもよろしいでしょうか?」

「ええ、どうぞ」

「この場にステフも呼ばれたということは、彼女も精霊王様に認められたということでしょうか?」

「ええ、そうです。私に求婚してきた人間は初めてです。なかなか面白い子ですね。彼女もまた、魔王討伐の一員になるでしょう」


 ここに呼ばれた時点でそう思っていたが、やはりだった。

 逆に言えば、メンザはその一員ではないってことだ。


「これであなたを含め三人。残りは二人。きっと素晴らしい出会いがあることでしょう」

「私が魔王討伐の一員……」


 さっきまで桃色モードで精霊王様に熱い視線を送っていたステフだったが、その言葉に真剣な顔つきになった。


「最後にひとつお願いがあります」

「なんでしょうか?」

「恥ずかしながら、私の息子が家出してしまいました。風流洞のどこかに潜んでいます。私が追いかけると逃げてしまいます。ついででよいので、もし出会ったら私のもとに連れて来てもらえますか?」

「ええ、わかりました」


 精霊の家出か……。

 風精霊は気まぐれだというが……。


「それでは、そろそろあなた達の世界に戻しましょう。また、最上階で会いましょう」


 その言葉とともに、俺たちを白い光が包み込む――。





   ◇◆◇◆◇◆◇


【後書き】

 次回――『風流洞攻略第11目2:第42階層2』

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