第142話 風流洞攻略第11目2:第42階層2
白い光が晴れ、元の場所に戻ってきた。
扉を開いたはずだったが、扉は元通り閉じたままだった。
ただ、そんなことよりも驚く光景が目の前で繰り広げられていた。
「じいじ、すごいー」
「ははっ、もっと増やせますよ」
にっこりと柔和な笑みを浮かべ、小さな魔力の塊でお手玉をするメンザ。
そして、それを尊敬の眼差しで見入っているサラ。
メンザの言葉通り、魔力塊は5つから7つに増える。
それを器用にお手玉している。
その姿は完全に孫煩悩なおじいちゃんだ。
メンザといい、アインスのギルド長のハンネマンといい、伝説のパーティー『五帝獅子』の英雄というイメージがガラガラと崩れていく……。
「あるじどのー」
俺たちに気がついたサラが、俺の足元に寄って来る。
「ちゃんと待ってられたか?」
「うんー。じいじが遊んでくれたー」
メンザの呼び名がおっちゃんからじいじに変化してる!
いったい、この短時間になにがあったんだ……。
サラを完全に懐かせるとは、やっぱり只者ではない。
「サラちゃん、アメ食べる?」
ステフが手のひらに乗せた飴玉を差し出す。
サラはしばしステフを見つめた後、手を伸ばし。
「あんがとー」
パクっと口に加えた。
美味しかったようで、にぱーっと笑みが広がる。
ステフはそれを微笑ましい目で見ている。
また、サラに飛びついたりしないか、少し心配だったが、その気配はない。
どうやら、真実の愛とやらは、結構本気なようだ。
はたして、人間と精霊の間に恋愛が成り立つのか。
苦難の道だが、頑張って欲しい。
シンシアにちょっかいを出さなくなるなら、いくらでも応援してやろう。
メンザとサラに精霊王との会話内容を伝える。
「そうですか。思っていたより、険しい状況ですね」
「ああ、マージン取ってレベリングしている余裕はなくなった。より一層厳しくなるが、俺たちなら大丈夫だ」
俺はみんなを見回す。
「まずは、コイツからやっつけるぞっ!」
「「「「おー!」」」」
俺は再度、大扉を開く。
円柱状の広い部屋だ。
天井は遥か高く、視認できないほどだ。
上の方で巨体が蠢(うごめ)いている。
この部屋の主だろう。
襲ってくる前に、俺たちは事前に決めていた通りに準備をしていく。
『火の精霊よ、皆に加護を与えよ――【火加護(ファイア・ブレッシング)】』
『風の精霊よ、皆に加護を与えよ――【風加護(ウィンド・ブレッシング)】』
『水の精霊よ、皆に加護を与えよ――【水加護(ウォーター・ブレッシング)】』
『土の精霊よ、皆に加護を与えよ――【土加護(アース・ブレッシング)】』
俺が精霊エンチャントを全員にかけると同時に――。
『――【聖気纏武(せいきてんぶ)】』
シンシアは聖気を纏うと、ステフの肩に手を置く。
『――【オーラ・レセプター】』
ステフがスキルを発動させると、シンシアの聖気がステフを包み込んだ。
そして、メンザが詠唱を終え――。
『――【魔導壁(マギカ・ヘミスフィア)】』
メンザの十八番、半球状の大きな魔導壁が現れる。
それとほぼ同じタイミングで、上から巨体が落ちてくる――。
全長5メートルほど。
蜘蛛の身体に蛸のような頭部が乗っているモンスターだ。
コイツの出現で、世界樹の心地良い香りに不快な匂いが混じる。
「名前はアラネア・ポリュプス。雷属性に弱いわ。逆に火属性と刺突攻撃には強いわ。弱点は頭部よ」
シンシアが【精霊知覚】で得た敵の情報を伝える。
ステフの刺突とサラの攻撃が通りにくいのが残念だ。
雷属性か……。
俺は火風水土の四大属性しか使えない。
そもそも、雷の精霊がいるのかどうかも不明だ。
だが――。
『――【付与(エンチャント):雷(ライトニング)】』
俺たちには全属性を使いこなせるメンザがいる。
レベル350オーバーの【3つ星】のエンチャントは、本職の付与術士に引けを取らない効果だ。
エンチャントの効果でシンシアのメイスと、ステフの短剣(スティレット)が紫色の光を帯びる。
俺はアラネア・ポリュプスの姿を観察する。
硬質で直線的な8本の足。
先端は黒く、尖っている。
胴体は紫と黄色の縞模様。
その上に乗っかっているのは赤黒く柔らかそうな頭部。
蛸そのものという形状。
生理的嫌悪感に肌がざわつく。
蜘蛛と蛸の間の子か。
行動パターンはだいたい予測がつくな。
「まずは様子見だっ!」
地に降り立ったアラネア・ポリュプスはその頭部から黒い液体を噴出する。
初手は蛸墨か。
広範囲に噴き出された蛸墨だったが、魔導壁に触れると綺麗に消え去った。
様子見で正解だったな。
飛び出していたら、視界を奪われ、いきなり不利な展開になっていただろう。
墨を吐き終わったアラネア・ポリュプスはこちらに向かって突進してくる。
振り上げた2本の黒く鋭い足は魔導壁にぶつかり、甲高い音を立てる。
さすがはメンザの魔導壁。
強度は十分だ。
この中にいれば安全だと確認できた。
となれば、今度はこっちの番だ。
「よしっ、行くぞっ! タコグモ退治だっ!」
レベリングの際は魔力効率を優先して戦ってきたが、出し惜しみはナシだッ!
こっからは全力。
俺たちの力を出し切るッ!
◇◆◇◆◇◆◇
【後書き】
次回――『風流洞攻略11日目3:アラネア・ポリュプス』
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