第138話 ララとロロ3

「始めっ!」


 合図とともにララが詠唱を始める。

 同時にロロがララを守るように立つ。


 シンシアは動かない。

 初手は譲るようだ。


 やがて、ララの詠唱が完成し、それと同時にロロが飛び出す。

 タイミングはばっちりだ。

 しっかりと連携が取れている。


『――【火球(ファイア・ボール)】』


 放たれた火球は俺が想像していたより大きく、速かった。

 半年前とは桁違い。

 レベル80の魔法士相当だ。


 ララが成長したこともあるが……。

 精霊の加護の効果だろう。

 水精霊の加護は精神を整え、魔法の威力を上昇させる。


 しかし、これほどとは……。

 今まで元から強い相手にしか使ったことがなかったが、初心者相手でもこれだけの効果があるのか……。

 これは反則だ。


 火球の予想外の速さにシンシアも驚いている。

 だが、それは一瞬。

 すぐに迎撃体勢に移る。


 速くなった火球ではあるが、俺たちが普段戦っているテンポに比べたら遅すぎる。

 シンシアは難なく木剣で弾き飛ばす。

 ただの木剣だが、シンシアは魔力をまとわせているので、鋼鉄並みの硬さだ。

 火球を弾くくらい、どうということはない。


 その直後、ロロがシンシアに斬りかかる。

 最初から、火球は防がれると想定してたのだろう。

 取り乱した様子はなかった。


 火球を弾いたことで、隙が出来た――ロロはそう思ったのだろう。


「ここだッ!」


 上段から振り下ろされる木剣。

 だが――。


 シンシアは左足を一歩、後ろに引き、半身(はんみ)になってそれを躱す。

 それと同時に、左拳をロロの顔面に叩き込むッ!


 カウンターをもろに喰らったロロは吹き飛び、地面を転がった。


 思い切り殴り飛ばされた、ララもロロもそう思っただろう。

 だが、俺には分かる。

 シンシアが全力で手加減したことを。


 やはり、こうなるか……。


 ララとロロには精霊の加護をかけたが、シンシアにはかけていない。

 それでも、これだけの実力差だ。


 さて、どうなるか……。


 痛いかもしれないが、まだ戦闘を継続できる程度のダメージだ。

 心が折れていなければの話だが。


「どうした? 終わりか?」

「まだまだッ!」


 ロロは立ち上がり、口の中に溜まった血を吐き出す。

 その瞳に宿る炎は激しく燃え上がっていた。

 ロロが見せた根性に、俺は嬉しくなった。


「ララ、作戦Bだっ!」

「うんっ!」


 ララが詠唱を開始した。

 ロロは今度は飛び込まず、ララを守るようにシンシアを牽制する。


 さっきはララの魔法が囮で、ロロの攻撃が本命。

 今度はロロが引きつけ、ララの魔法が本命だ。


 シンシアが本気を出したら、詠唱が終わる前に二人ともダウンさせられる。

 だが、これは模擬戦。

 シンシアは手加減してくれている。


 狙いをロロに絞り、威力とスピードを落とした連撃を仕掛ける。

 ロロは防戦一方になるが、なんとか凌いでいく。


 さすがはシンシア、絶妙な手加減具合だ。

 ミスをしなければ受け切れるギリギリの攻撃だ。


「クッ……」


 顔をしかめつつも、ロロは懸命に喰らいついていく。

 そこにララの詠唱が終わり――。


『――【風刃(ウインド・カッター)】』


 三つの見えない刃がシンシアを襲いかかる――。


 シンシアはロロにかかりきり、ララには無警戒。

 間違いなく、風刃は命中するはず。

 二人だけでなく、周りで見守っている子どもたちもそう思っただろう。


 だが、シンシアは無造作に木剣を振るうと、風刃は三つとも雲散霧消。


「「えっ!?」」


 これには二人とも驚愕する。


 シンシアはずっとロロから視線を離さなかった。

 それでも、不可視の風刃をいとも容易く無効化した。


 二人は驚いているが、それなりの冒険者であれば、魔力の流れを感じ取ることで、見なくても魔法攻撃には対処できる。


 動きを止めたロロの胸をシンシアは軽く突く。


「集中しなきゃダメよ」


 隙を晒していたロロは、そのひと突きにたたらを踏む。


「味方の援護は失敗するものと思わなきゃダメ。決まったと思って油断したら、そこを狙われるよ」

「はっ、はいっ!」

「ララちゃんも、魔法を打ったら、すぐに次の動作に移らないとダメよ」

「はいっ!」

「でも、良い連携だったわ」


 シンシアは簡単にいなしたが、今の連携も最初の連携も、彼らの年齢では十分合格点だ。


「じゃあ、仕切りなおしましょうか」

「「はいっ!」」


 シンシアの指導はまだまだ続く――。


 ――しばらく後。


「ちくしょ〜。ラーズ兄のバフがあっても、ボロ負けかよっ」

「悔しいですっ!」


 完膚なきまでに一方的にやられたが、それはシンシアが相手だからだ。

 冒険者にもなっていない二人としては上出来、いや、破格の腕前だ。


「いや、十分だったぞ。二人とも俺が14歳だった頃より、よっぽど強いぞ。なあ、シンシア?」


 さすが、ロザンナさんに毎日鍛えられているだけはあるな。

 俺も小さい頃から冒険者になるために訓練してきたが、ほとんど自己流だった。

 だが、この子たちにはロザンナさんという素晴らしい師匠がいる。

 この調子なら、二人とも【1つ星】くらいは難なくなれそうだな。


「ええ、この年でここまで出来る子はなかなかいないわ」

「ホントかっ」

「本当ですかっ」

「毎日、頑張ってる証拠だ。エラいぞ。この調子で励めよ」

「「はいっ!!」」


 二人の真っ直ぐな若さがすこし眩しかった。


「俺のバフはどうだった?」

「身体がとてつもなく軽かった。いつもの俺だったらシンシアさんの攻撃は防げなかったと思う。やっぱ、ラーズ兄は凄いっ!」

「いつもより桁外れの魔法が打てましたっ」

「あれはお前たちの潜在能力を引き出しただけだ――」


 俺の言葉に二人は、ハッとする。


「だから、修行を続ければ、いずれ二人はあの強さを手に入れられる。あれくらい強くなれるんだ。自信を持っていいぞ」

「あんなに強くなれるのか……」

「あの魔法、もう一度打ってみたいです……」

「ああ、きっと出来るようになるさ」


 二人とも立派な冒険者になって欲しい。

 そのためにも、魔王を倒さないとな……。





   ◇◆◇◆◇◆◇


【後書き】

 次回――『ララとロロ4』

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