第137話 ララとロロ2

 ロザンナさんと旦那さんとの話が終わり、俺とシンシアは庭に戻った。


「ラーズ兄、やろうぜっ!」


 俺の姿を見かけるなり、ロロが挑戦を持ちかけてきた。


「ああ、どれくらい強くなったか見てやる」

「へへっ、今日こそ一本とってやるぞっ!!」


 今まで何度も稽古をつけてやったが、もちろん、一本も取られたことはない。

 いくら戦闘職でない俺でも、冒険者になっていない子どもに負けるわけがない。


 近くにいた少年から木剣を借り、ロロと向かい合う。


「いつでも良いぞ」

「行くぞーッ!!」


 掛け声とともに、打ちかかってくる。

 威勢はいいが、技量が伴っていない。

 どこを狙っているかバレバレだ。

 俺は軽く合わせ、軌道をそらす。

 体勢が崩れたところに足をかけると、ロロは簡単にすっ転んだ。


「どうした? そんなもんか?」


 俺が煽ると、ロロは悔しそうな顔で立ち上がる。


「まだまだ、今度は本気出すッ!」

「おう、かかって来いっ!」


 ――十分後。


「くっそ〜〜〜。勝てねえッ!」


 大の字になって地面に寝転ぶロロ。

 疲労困憊で呼吸も荒い。

 一方、俺は汗ひとつかいていない。


「強くなったな。だが、まだまだだな」


 半年前に比べたらだいぶ成長した。

 現時点ですでに駈け出し冒険者並みの実力はある。

 だが、ロロは調子に乗りやすいので、その事は伝えない。


「なあ、ラーズ兄、前より強くなってねえか?」

「ああ、俺も日々成長しているからな。死ぬ気で頑張らないと、いつまでたっても追いつけないぞ」


 追放されてから近接戦闘をやる事が増えた。

 おかげで、だいぶ勘を取り戻してる。


「ちくしょ〜〜。ぜってえ、追い越してやるッ!」


 負けず嫌いなのはいいことだ。


「シンシア、回復してやってくれ。バフ付きで」

「ええ、分かったわ。――【聖癒(ホーリー・ヒール)】」

「うおっ、すげー」


 【聖誅乙女】の回復魔法はハンパない。

 怪我が直って、疲労もとれる上、身体強化のバフもかけられる。


「なんだこれ、力が漲ってくるっ!」


 ロロは飛び起き、初めての経験に興奮しきりだ。


「これがジョブランク3の回復魔法だ」

「えええ、お姉ちゃんジョブランク3なの?」

「ええ、そうよ。ラーズもね」

「えっ!? ラーズ兄、ジョブランク上がったのっ!?!?」

「ああ、最近な」

「すっげえ〜〜〜」


 憧憬の視線を向けられる。

 俺もこの年頃には、凄腕の冒険者に憧れたものだ。


「まだ戦う気あるか?」

「ああっ、もちろんだっ」

「じゃあ、いいモノ見せてやるよ。ララもこっちおいで」

「ラーズ兄さん、なんですか?」

「2対1だ。いけるか?」

「はい。やってみます!」


 俺は二人に全力のバフをかけてやる。


『火の精霊よ、(対象)に加護を与えよ――【火加護(ファイア・ブレッシング)】』

『風の精霊よ、(対象)に加護を与えよ――【風加護(ウィンド・ブレッシング)】』

『水の精霊よ、(対象)に加護を与えよ――【水加護(ウォーター・ブレッシング)】』

『土の精霊よ、(対象)に加護を与えよ――【土加護(アース・ブレッシング)】』


「どうだ? 強化されたの分かるか?」

「なんじゃ、こりゃ。すっげえ〜〜〜」

「凄いですっ」

「三段階くらいは強くなっている。ファースト・ダンジョン中盤くらいなら通用する強さだ」

「マジっ!?」

「本当ですか?」

「ああ。この強さで模擬戦やってみよう。バフ付きで2対1だ。いいところ見せてみろ」

「ラーズ兄、今度こそ負けないぞッ!」

「ラーズ兄さんに無様な姿は見せられません。頑張りますっ!」

「相手をするのは俺じゃない。このお姉ちゃんだ。シンシアいけるよね?」


 俺とロロの模擬戦を見て、ウズウズしているシンシアに声をかける。

 おもちゃを与えられた子どものように、満面の笑みを浮かべている。

 やっぱり、根っからのバトルジャンキーだ。


「ええ、行けるわ。ちょっと貸してね」


 シンシアは他の子から短めの木剣を借り受ける。

 普段使っているメイスと同じくらいのリーチの木剣だ。

 二、三度振って感触を確かめている。


 それを見たララとロロは驚きの声をあげる。


「「えっ!?」」

「よろしくね〜」

「シンシアさんは回復職では?」

「そうだよ。さっきの魔法、凄かった」

「確かに回復職よ。でも、こっちも同じくらい得意なの」

「言っとくけど、シンシアは俺より強いぞ」

「「ええっ!?」」

「まあ、ボコボコにされてこい。準備はいいか?」

「ちょ、ちょっと待って。作戦会議だ」

「ああ、じっくり考えていいぞ」


 二人は小声で作戦を練る。


「ねえ、ラーズ、どれくらい本気出していいの?」

「心を折らない程度に圧勝して欲しい」

「分かったわ」


 しばらくして、二人の相談が終わったようだ。


「おっけー、もういいよ」

「いけますっ!」


 二人はシンシアから3メートルほど離れた場所に立つ。

 ロロが前に立ち、その後ろにララだ。


 シンシアはリラックスした様子で、右手に木剣を構える。


「始めっ!」





   ◇◆◇◆◇◆◇


【後書き】

 次回――『ララとロロ3』

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